流浪の月.jpgたしかにこういう結び付き、世界があるのかも知れない。両親が消え、親戚に引き取られた家内更紗9歳、女性との恋ができない大学生の佐伯文19歳――。ある日、「うちにくる?」「いく」と、マンションで1か月以上も暮らすことになった二人。「家内更紗ちゃん誘拐事件」は、それぞれ家庭からも人の営みからもはじき出され、人とは違う自分にもがいていた二人のこんな出会いから始まった。誘拐どころか安らぎの幸せの日々。しかし世間は「誘拐事件を起こした小児性愛者」文への罵倒や揶揄、「犯人の呪縛から逃れられない哀れな被害者」更紗への同情・好奇で塗りつぶされた。そして15年が経過し、二人は再会する。

「それでも文、わたしはあなたのそばにいたい」――。愛でもない、恋でもない、そんなものを昇華した深い結び付き。「わたし、どうしても文の隣に住みたかったの」「そばにいると安心する。落ち着く。満たされる。どれもそのとおりで、なのに言葉を集めるほど足らない気がする。そこが自分の居場所だって気がするから」「文といるとすごく楽なの」というのだ。ハラハラ、ドキドキ、何とか二人が幸せになってもらいたいと読者は息をのむ。

「でも多分、事実なんてない。出来事にはそれぞれの解釈があるだけだ。わたしが知っている文と、世間が知っている文は全然ちがう。その間でもがく」――人間は弱さや不安を抱え、業にもまれながら生きていく。その時、自分の心の空洞を満たしてくれる誰かを欲しているものだ。2020年の本屋大賞受賞作。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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