デジタル化が進み、人とモノがネットで密接につながった先進的な社会こそ、脆弱性が深刻になる。日本はそのうちの一国だが、その認識が弱い。個人のレベルでも1つのパスワードを使い回している人の割合は85%、それでは大切なデータや金銭が抜き取られる。企業も脅威インテリジェンスに精通した社員を確保(最低1人)しないと生き残れないのに、行動しようとしない。国の安全保障でも、陸・海・空に今、サイバー空間が戦闘領域となり、米欧中露をはじめ、北朝鮮、中東の国々の動きに比べてあまりに弱い体制となっている。「他国ではない。最大の脅威は日本人自身だ。日本人は自分たちの直面している現実を知ろうとしていない。そのため日本のサイバー空間は隙だらけだ」と強い警鐘を鳴らす。サイバー攻撃や詐欺などが頻発し、ネットの闇は私たちのすぐ近くにある。吉野さんは、実際の犯罪者や世界のサイバー作戦に関わった人を直撃し、ネット社会の暗部を生々しく剔り出す。副題は「ネットの闇に巣喰う人々」。
「10代で悪事の限りを尽くした未成年ハッカー。動機はお金欲しさより称賛されたいため」「振込詐欺は生態系ができあがり、今や撃退が困難」「チャットレディで拡大したネット風俗」「恐喝、見殺し、爆殺――サイバー空間での熾烈な攻防戦」「やらせの口コミの蔓延、フェイクニュースの拡散戦略」「急進するネット監視社会とその実例」「国家による政治を操り、金銭強奪、殺人にまで及ぶサイバーテロ」「日本のサイバーセキュリティーは脆弱」・・・・・・。数年にわたって、危険を冒して世界中で当事者たちを取材しただけあって、ネット社会の現実、その闇の深さが伝わってくる。