少年たちを主人公にした短編集。「逆ソクラテス」「スロウではない」「非オプティマス」「アンスポーツマンライク」「逆ワシントン」の5編。スポーツ、いじめ、家庭に秘められた親と子の情愛、コーチや教師や親の至高の一言。いずれも印象的な逆転のドラマが描かれる。人間の心理の本質を突いているだけに実に面白い。爽やかでスカッとする。心に沁み入る。
この社会、とくに親や教師や特別に何でもできる"優秀"といわれる傲慢な生徒に対して、普通の少年仲間は弱者だ。「決めつけ」「先入観」「レッテル貼り」で身動きがとれず、固定化され、少年たちに重くのしかかる。いつも「だめな奴」「褒められず」に委縮する。ソクラテスは自分は何も知らないことを知っているという「無知の知」だが、少年たちに何でも知っているという「逆ソクラテス」の教師たちがのしかかる。5つの短編はそれを引っくり返す逆転劇が、それもじつに人間心理を見透かし、逆手をとっての知恵の戦いによって演じられるのだ。
「敵は、先入観だ。先生の先入観を崩してやろうよ」「未来のおまえは笑っている。それは間違いない」「潤、大事なことを忘れている。親だって人間だ」「先生はみんなに、相手を見て態度を変えるような人になってほしくない。イメージで決めつけていると痛い目に遭う」「授業を邪魔するのが好きな奴、迷惑かけても平気な奴、そのイメージは定着しちゃうよ。口には出さなくても心の中では可哀想にとみんな思っているかもしれない」「バスケの世界では、残り一分を何というか知っているか? 永遠だよ、永遠」「わたしがいじめられたら、いじめてきた相手のことは絶対に忘れないからね・・・・・・自分が誰かをいじめたらほかのみんなが覚えているぞ」・・・・・・。とてもいい小説。