灯台からの響き.jpg板橋の仲宿商店街で、父親から受け継いだ人気の中華そば屋「まきの」を妻と営んでいた牧野康平。2年前に妻・蘭子が急死し、店はできなくなりふさぎ込む。ある日、読書家の康平が、「神の歴史」という本を読んでいると、1枚の蘭子宛の古い葉書がページのあいだから落ちる。差出人は小坂真砂雄という大学生で「灯台巡りをした」という文章と、どこかの岬らしい図が描かれていた。蘭子は「全く覚えがない」といい、「このような葉書が届いたが、私はあなたをまったく知らない・・・・・・」という返事を出したのだった。「本当に妻は、彼を知らないのか」「62歳のひきこもりのおっさんになってしまうと立ち直るのは難しい」「よし、灯台を見る旅を始めるぞ」と、鴎外の「渋江抽斎」を読んでいるうちに康平は決意する。

妻の過去をたずねる康平の"灯台巡り"の旅。それを温かく支える康平の子どもや商店街の仲間・・・・・・。康平は「まきの」を再開しようとの思いが募っていく。「『渋江抽斎』は夥しい死の羅列だ。・・・・・・わずか生後3日で死んだ子さえも、目には見えないなにかを残していく。その子にとってはたったの3日間だが、それは永遠のなかの一瞬ではなく一瞬のなかの永遠なのだ」・・・・・・。次第に妻が守り抜いた秘密、葉書の意味が明らかになっていく。それはそのまま毎日毎日、商店街の中華そば屋で康平とともに身を粉にして働き続けた「蘭子」という女性の"生き方の芯"に迫ることになっていく。感動がせり上がって来る。そして、市井に生きる人々の「美しさ」や「幸福感」が波が打ち寄せるように迫る。人知れず風雨にも屹立する"灯台"は、人生の"生きる芯"を表現するように思えてくる。素晴らしい作品。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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