"いい話"が続く。最後はドンデン返しのようでいて、暗黒から突き抜け、次元の異なる感動的な"いい話"で着地する。第一章「垣見五郎兵衛の握手会」から最終章「美しい人生」までの8つの連作短編。なつかしい映画の場面が現われ、流れる。
堀尾葉介――。顔もスタイルも抜群で、アイドル時代は圧倒的な人気を博す。俳優に転身した後は、演技力を磨き、数々の映画賞を獲った実力派の国民的俳優。真摯で誠実な人柄で誰もが称賛される好感度抜群の男だ。
各章で登場するのは、仕事も結婚も順風満帆ではなく不器用に生き暗い過去を抱える人々だが、いずれもある場面で堀尾葉介にかかわり、交差する。そこから人生が変わったり、アンビバレントな感情を引きずったりもする。「だし巻きとマックィーンのアランセーター」「ひょうたん池のレッド・オクトーバー」「レプリカントとよもぎのお守り」「真空管と女王陛下のカーボーイ」「炭焼き男とシャワーカーテリング」「ジャックダニエルと春の船」・・・・・・。いずれも"いい話"。題名にある激しい「雨」の日に「涙」を流す出来事は印象的だ。抱え込んだわだかまりが、「人との出会い」「雨」「涙」でふっ切れ、人生を肯定的に描いているのが心持良い。