「中国古典に学ぶ『世界最高のリーダー論』」が副題。「貞観政要」は、唐の第2代皇帝、太宗・李世民の言行録。座右の書とする人も多く、北条政子、徳川家康、明治天皇も愛読したという。房玄齢、杜如晦(とじょかい)、魏徴(ぎちょう)の3人の名臣を用いたが、とくに魏徴は、かつては李建成(次男の李世民に殺された兄)に仕えていた外様で、李世民に耳に痛いことを言い続けた。もう一人の功臣・王珪も外様で諫言する部下だった。
出口さんは『貞観政要』のなかの「三鏡」――銅の鏡(自分を映す)、歴史の鏡、人の鏡(部下の直言や諫言を受け入れる)を座右の銘にしているという。納得だ。「十思九徳――いいリーダーに共通する10の思慮と9の徳業」「魏徴は、何かをしなくても、また何かを命令しなくても世の中を治めることができるのが聖天子(徳の高い皇帝という。適材適所に人材を配置することで全てが決まる。あとは信頼して任せる)」「むやみに行使しないのが"強い権力"(権力は正しく使うべきであり、力をもって人民や家臣を服従させてはならない)」「どんな組織も"上に立つ人の器"以上のことはできない」「いっそ"上司の器は空っぽ"にする」「"人がついてくる"と、権力・人事権で"人を従わせる"は大違い」「明君の条件――複数の人の意見、諫言を聞き入れること」「人には瓦タイプ(じっくり育てる)と鉄タイプ(叩いて伸びる)の2つがある」「太宗は3つのことを実践した――"過去の皇帝の失敗に学ぶ""善人を登用する""戯言に耳を貸さない"」「太宗は大局観で捉える君主だったが、"小事が大事"と臣下には小さな問題も放置してはいけないと言った」「国家や組織を治めるには、リーダーが『言(げん)』と『徳』、言葉と人徳を立てることが大事(言葉と人格の言行一致)」「リーダーは目先だけでなく、"時間軸"を頭の中に持て」「思いつきの指示は部下に必ず見抜かれる(信と誠がある人が人を動かす)」・・・・・・。
臣下の劉洎(りゅうき)は、皇太子の教育が行き届いていないとして「読書」「文章」「人との交流」を太宗に上申した。人物を大きくする3要素だ。貞観政要には「『疾風、勁草を知り、板蕩、誠臣を識る』とあり、困難に遭って初めて真価がわかり、天下が乱れた時こそ、その人の忠誠心がわかる」とある。「優秀なリーダーでも管理できるのは10人が限度。太宗は自分は賢くない、すべてに口を出したら人民を惑わすとわかっていた。それで賢良な部下に任せた」「太宗は組織を少数精鋭にする、少数にしたら精鋭になると考えた」「創業と守成――房玄齢は天下平定に艱難辛苦を経験したゆえに創業が難しと考えた。魏徴は天下を安定させ驕りを心配し、守成の難しさを理解していた」・・・・・・。
「君は舟なり、人は水なり」は貞観政要の有名な一句。「水は能く舟を載せ、亦能く舟を覆す」とし、君主が正しい政治を行わなければ、水(人民)は荒れ狂い、舟(君主)を転覆させると言った。そして「有終の美」を飾れる人には「初心を忘れない」「諫めてくれる臣下をもつ」が大事といい、太宗は魏徴の直言を屏風にしたという。