なんと主人公が人工知能を搭載したAIロボット(AF)のクララ。カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」は、臓器提供を目的に生まれたクローンの子供たちをテーマとしたが、今度は近未来のAI・ロボット世界がどうなるかを想像するとともに、このAFのクララがなんともいえない純朴な温かさをもって、人間を助けてくれるのだ。それがグッと心に迫るという不思議な感覚をもたせる小説。
店頭で買い手を待っていたAFのクララは、病弱の少女ジョジーと出会い、二人はいっしょに暮らし友情を育んでゆく。クララは最新型のB3型ではなく旧型のB2型だ。しかし、「見るものを吸収し取り込んでいく能力」と「精緻な理解力」、「真っすぐな観察・学習意欲の努力姿勢」は卓越していた。ジョジーはどんどん身体を弱らせていき、クララは心配する。「お日さま」が救ってくれるという「希望」をもつのだ。AFにとって得意とは思えない「祈り」という宗教世界が素朴に立ち上がってくる。ジョジーの姉を失っていた母親・クリシーは、ジョジーが死んだらと「ジョジーの中に入ってほしい。ジョジーになってもらいたい」「コピーではない。ジョジーと完全に同等で、ジョジーを愛するのと同じに愛してよいジョジーになる」ことまで考えるのだ。そうなる前に、クララはジョジーの回復を「お日さま」に祈り行動する。AFが共に暮らすようになる時代は必ず来る。宮部みゆきの「さよならの儀式」もそうだ。しかしカズオ・イシグロはSFではなく、人間の本質的な「生老病死」「愛別離苦」「人間愛」「家族愛」の世界を、AFを主人公としてより新鮮に、感動的に描いている。