分断、格差が問題となる社会。貧困、虐待、想像絶する過重労働やハラスメント・・・・・・。眼前にある実態を極めてリアルに描き出すとともに、そのなかで生き、生き続けなければならなかった33歳になる男同士の友情と葛藤と戦い。残酷と悲惨、むごさのなかでの人間の宿業、哀しさ、弱さ・・・・・・。哲学を超えるような諦観のなかで生きる姿が、やるせないほど胸底に迫る。「どうしようもなく暗い夜も、必ず夜が明ける」「苦しかったら助けを求めろ」「自分には、困ったときにあらゆる人に助けてもらう権利がある。どんなクズでも、ダメな人間でも、生きてるから権利があるんじゃないの」「気張らず、正直に生きる。守るとか、言い返すとか、敵を作って、身内の悪いところは見えないようにする。それって不健康。勝つことが目的ではなく、続けることが目的なんだから」・・・・・・。
「お前はアキ・マケライネンだよ!」と「俺」はアキ(深沢暁)に声をかける。高校1年生の時だ。アキは身長191cm、頬には深く皺が刻まれ、3、4人は殺して埋めてきたような風貌で入学式に現れ、とんでもない暗い空気を発していたが、オドオドしていた。アキ・マケライネンは、映画「男たちの朝」に出たフィンランドの俳優だ。「俺」は普通の家庭に育ったが、父親が交通事故で死亡して貧しい家庭と転落し、アルバイト生活を余儀なくされる。アキは母子家庭、母親にネグレクト、虐待され、ひどい吃音で小中学校時代も身を隠すようにオドオド生きてきたが、「お前はアキ・マケライネンだよ!」の一言で人生は一転、勇気を持って級友の中に入っていった。2人はかけがえのない存在となったのだ。そして大学卒業後、「俺」はテレビ制作会社に就職、これが想像絶するパワハラ横行のブラック企業、心も体もズタズタになり、手首を何度も切るに至る。一方アキは、その異形ぶりから劇団に入るが、あまりにも理不尽な仕打ちに遭い、これも心身を壊していった。33歳の今に至るまで、苦労などと言うものではない、心身ともに疲れはて、社会から踏みつぶされ、はじき出されていく。そんななかで、幼き頃からアキは日記をつけていた。
「生きるとは」「生き続けることとは」「人が生きるために真に必要なものとは」「救いの手とは」を、絶妙な筆致と問いかけの深さで迫っていく。凄みのある力作。