歴史は勝者の歴史となることが多い。織田信長が朝倉・浅井を滅ぼし、本願寺・一向宗を倒したというが、加賀一向宗の中で、孤高の戦いを続けた「仁王」と呼ばれた男がいた。その最強の武僧・杉浦玄任の側から、壮絶な戦いを描き、激しき加賀一向一揆の実像に迫る。
「民の国をつくる」「誰の支配も受けず、民衆が自らのことを自ら治める政」を、加賀一向一揆の坊官・杉浦玄任は不動の信念として貫く。立ちふさがるのは、まずは越前の仏敵・朝倉義景、そして仏敵・上杉謙信、止めは仏敵・織田信長。加賀が生き残るために「仁王」は、あるときは朝倉とも結び、また謙信とも結ぶという智謀を巡らす。本願寺が軍事をも指揮をとる坊官を派遣し、衆議で決める体制をつくったところに信長を悩ました一向宗門徒の独特の形がある。しかし、加賀はこれら強大な外敵に囲まれるなか、間断なき戦闘を余儀なくされる。しかも一向宗内の政は、自己保身と腐敗・堕落が充満する有様であった。普段は穏やかで私心がなく、戦いにあっては鬼神のごとき「仁王」への民の信頼が高まるが、それがまた嫉妬の感情を呼び起こす始末。そのなかで「仁王」は戦い続けるが、歴史の濁流に飲み込まれていく。
「乱世と加賀一向一揆」「民の国への本願と宗教的情念」「民主主義の理想と政治権力」などの難題を、武僧の感動的・崇高な生き様で描く。現実にあった悲劇的エンタテイメント。