「夏の体温」「魅惑の極悪人ファイル」と、きわめて短い「花曇りの向こう」の3編。
「夏の体温」――。夏休み、小学3年生の高倉瑛介は、血小板数値の経過観察で1か月以上入院し、退屈な日々を送っている。そこに低身長の検査で同学年の田波壮太が入院してくる。壮太はいきなり「俺、田波壮太。三年。チビだけど、九歳」と陽気に挨拶。たった三日間だが、次々と遊びを見つけ、楽しい楽しい交流の時間を過ごす。壮太は退院。別れがなんとも可愛く辛く、二人の姿を思い浮かべてしまう。「お母さんは何もわかっていない。あれ以上言葉を発したら、泣きそうだったからだ」・・・・・・。紙飛行機を残し、そして手紙が来る。ひからびたバッタの死骸が入っていた。病を抱えながら健気に生きる二人の姿と少年のエネルギーが心の奥底に迫る。
「魅惑の極悪人ファイル」――。学生作家の大原早智。人間の闇を書こうとして、「ストブラ」と呼ばれる倉橋ゆずるという大学生に取材に行く。「腹黒」と言われる倉橋は、極悪人どころかとてもいい奴。そのキャラクターに惹かれていく変化の様子が、なんともほほえましく面白い。