syosetudeyomitoku.jpg「神武東遷、大悪の王、最後の女帝まで」が副題。周防柳さんの「蘇我の娘の古事記」は、大変面白かったが、本書は、資料にも乏しく謎だらけの古代史、23世紀の邪馬台国の頃から、8世紀の平城京の頃までに焦点を当てる。学術書とは違って、名だたる小説家が想像の翼を広げ、新鮮な切り口や発想で描きあげた小説を紹介しながら「古代史」を眼前に見せてくれる。曖昧なものはそのままに、くっきりしたものはくっきり、権力闘争する人物も善悪こもごもそれぞれに。極めて面白く、古代史を俯瞰できる。素晴らしい。

「邪馬台国はニつあったか――大和と筑紫の女王卑弥呼(小説の世界では、邪馬台国九州説が圧倒的に優勢だが、同時期の大和にもそこそこの大きな勢力ができていたのではないかと想像する)」「神武は何度東遷したか――記紀神話と初期大和政権(邪馬台国から三輪王朝へ、出雲と大和の因縁の関係、繰り返される神武東遷、英雄ヤマトタケルの物語)」「応神天皇はどこから来たか――河内王朝と朝鮮半島(河内王朝は15代応神天皇から25代武烈天皇の6世紀初頭までの100年余り、朝鮮半島ヘ外征したという神功皇后とは何者か、多かった渡来人とDNA研究、大悪の王ワカタケル)」「大王アメタリシヒコとは何者かーー馬子と推古と厩戸皇子(継体から欽明へそして蘇我氏登場、崇仏派・蘇我馬子と廃仏派・物部守屋の対立、馬子が満を持して誕生させた23代推古女帝、仏教おたくの引きこもり厩戸皇子)

「天智と天武は兄弟か――対立から見た白村江、壬申の乱(乙巳の変と大化の改新、蘇我入鹿を倒した中大兄皇子と腹心・中臣鎌足、弟の大海人皇子との確執、額田王をめぐる三角関係、白村江の戦いとは人さらい戦争)」――中大兄皇子寄りの小説と大海人皇子寄りの小説が紹介され、そこに権力闘争と渡来人との関係がかぶさり、きわめて立体的で面白い。井上靖、井沢元彦、周防柳さん自身、荒山徹、澤田瞳子、豊田有恒、黒岩重吾などのそうそうたるメンバーがそれぞれの小説を叩きつけている熱量がすごい。「カリスマ持統女帝の狙いは何か――藤原不比等と女帝たちの世紀(天武天皇亡き後を継いだ持統女帝から奈良時代末までの100年、律令制が完成し、中央集権体制が実現し、天武天皇の血統が守られた女帝の多い100年だった)(蘇我系女帝たちの格闘、中臣鎌足の子の不比等に始まる藤原氏の台頭、藤原氏が誕生させた聖武天皇と妻・光明皇后、その一人娘・孝謙天皇=称徳天皇と弓削道鏡事件、その騒動によって女帝の時代は終わる)

資料なき謎多き古代史に挑む小説家の熱量の凄さ。箒木蓬生、松本清張、梅原猛、内田康夫、邦光史郎、安彦良和、黒岩重吾、池澤夏樹、上垣外健一、永井路子、杉本苑子、玉岡かおる。その他にもすごいメンバーが真実に挑みつつ、ロマンを膨らませてくれている。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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