成田さんは、臨床経験35年の小児脳科学者。近年、発達障害と呼ばれる子どもが劇的に増えているといわれる。2020年には9万人を超え、この13年で10倍に増えているという。昨年の調査では、「困難を抱える、すなわち発達障害を疑われる子どもたちが小・中学校において8.8%もいることが明らかになった」という。しかし本当はどうか。成田さんは「発達障害と指摘されて、私のところに相談に来る事例の中には、医学的には発達障害の診断がつかない例も数多く含まれている。私はそのような例を『発達障害もどき』と呼んでいる」と言う。増えているのは、発達障害ではなく、「発達障害もどき」であり、生活を変えただけで変わると言っている。生活リズムの乱れと、テレビやスマホ、タブレットなどの電子機器の多用が大きく影響していると指摘する。
発達障害は、脳の発達に関わる生まれ持った機能障害。代表的なのは注意欠如・多動症(ADHD)と学習障害(LD)、自閉スペクトラム症(ASD)。症候も様々で併せ持つことも多く、現れる症候も人によって違う。脳は凹凸があるにしろ「脳の可塑性」をもち成長する。順番があり、①からだの脳(呼吸・体温調整など生きるのに欠かせない機能) ②お利口さん脳(言葉・計算の能力、手指を動かす力など、勉強やスポーツに関わる) ③こころの脳(想像力や判断などの人らしい能力を司る)――の順番をたどる。①の生きるのに一番大切な脳は0〜5歳の間に盛んに育ち、これが育っていないと② ③も育たないと言う。②は小中学生の時期に大きく伸びる。③は18歳前後まで発達し続ける。そこで大事なのが、脳を作り直すこと。それには土台となる①の脳を育てることであり、「生活の改善」だと指摘する。それには3つのポイントがあり、「朝日を浴びる(体内時計をリセットする)」「十分に眠る(小学生の場合、夜10時には熟睡状態が理想)」「規則正しい時間に食べる(特に朝ご飯、食べると排便がある)」と指摘する。子どもに役割を与え、家族に感謝されると、自己コントロール力、自己肯定感を育てることになる。叱ると不安と攻撃性が増す。生活改善で「脳育て」だ。
また特に、「睡眠が子供の脳を変える」ことから、家族全員が協力することが大事だと言う。親にとってもだ。睡眠不足が「発達障害もどき」を引き起こすという。そして「子育ての目標は『立派な原始人』を育てること」「子どもに与えるべきは『寝る・食べる・逃げる』というスキル」「子育ての核は『ありがとう』『ごめんなさい』の中にある」と言っている。
きわめて常識的なことを指摘しているが、とても大事なことを言っていると思う。