20121016日本の領土問題.jpg「三つの領土問題はそれぞれの力点が異なっている。北方領土は"歴史問題"、竹島は"政治問題"、尖閣諸島は"資源問題"が主である」と保阪さんはいう。東郷さんは、「日本の国際場裏における力の弱体化が背景にある。経済力、政治力の弱体化に、日米関係の混乱が拍車をかけた」といい、「領土問題が思考停止となっている」ことに警告を発する。

毅然たる姿勢というのは「強気一点張り」ではない、将来にわたっての展望を見、戦略性をもち、外交力を駆使して、命をかけてやれば必ず拓かれる。

たとえば、北方領土問題は、"領土問題"ではない。歴史問題だ。民族の屈辱として受けた"裏切り、残虐、領土的野心"の三つが残ったのだ、と指摘する。

鍵になる文書は(1)1951年署名のサンフランシスコ平和条約(2)1956年署名の日ソ共同宣言(3)1960年のグロムイコ声明――とする。そして「日本の一発勝負案とロシアの妥協案」として三つの合意文書、「1991年の海部・ゴルバチョフ声明」「1993年の東京宣言(細川・エリツィン)」「2001年のイルクーツク声明(森・プーチン)」を示す。当事者だけに生々しく、激しい熱さと息づかいが聞こえるほどだ。2006年からの「面積等分論」の浮上やプーチンの心の動きを歴年ごとに語ってもいる。メッセージをかぎとり、チャンスをつかむことができたのに失敗したという外交の反省も随所に語られている。

竹島をめぐる1905年以前の歴史をたどり、編入時点における竹島「無主」の問題、日韓のギャップのなかでの1998年の日韓漁業協定、そして今日。尖閣については、「あらゆる外交的手段を尽くして武力衝突を回避する施策を」と訴える。

「手遅れになるな」――東郷さんの主張が出ているが、本書は今年2月発刊。事態は進んでしまっている。更に「手遅れになるな」だ。日本の総合力もだ。


20121012史記司馬遷著.jpg本紀から列伝に至る「史記」130巻から選んで現代語訳を加える――大変な作業だと思うが、人物の魅力は活写されている。

「権力にあるもの帝王(堯・舜・湯王・始皇帝・劉邦)」
「権力を目指す英雄たち(伍子胥・蘇秦・張儀・項羽)」
「権力を支える補弼の臣下たち(張良・陳平・韓信など)」
「権力の周辺にある道化・名君・文学者たち(信陵君・司馬相如など)」
「権力に刃向かう刺客と反乱者たち(予譲・荊軻・陳勝)」が描かれる。

私にとって「史記」といえば、衆院本会議でも引用したことのある国の滅亡は「その本を失う」(人間の基本が崩れるゆえ)という一国の興亡、そして司馬遷の人生そのもの、何ゆえにこれほどの大著をあらわしたかという執念だ。

 「司馬遷は生き恥さらした男である」から始まる武田泰淳の「司馬遷―史記の世界」は、最初のページから一気に引き込まれるもので、今も衝撃は鮮明だ。前漢に書かれた全世界史「史記」の政治的人間像は常に新しい。


20121009光圀伝.jpg「天道是か非か」「君主いかにあるべきか」「大義とは何か」「歴史とは何か」――。

徳川御三家と家光、家綱、綱吉の治生とその側近。それらに対する感慨をもちながら、「なぜ自分が世子なのか」との煩悶を常に抱きつつ、「大義」の道を貫き通した水戸光國(圀)。父に厳しくされ、破天荒の少年時代から傾奇者の時を経て学問と詩歌の道に没頭する青年時代、そして史書編纂にかける光圀、黄門の時代へと進む重厚な生涯が描かれる。

周りの人物は深く影響を与えられた者に絞り込まれ、父・頼房、兄・頼重、尾張の徳川義直、紀伊の徳川頼宣、宮本武蔵、山鹿素行、林羅山とその息子読耕斎、冷泉為景、そして妻・泰姫、左近、保科正之、藤井紋太夫等々が活写され、考え深い。

天下万民を治めるには大義、思想、哲学が重要なこと。逆にあわせてそれに自己陶酔と思考停止が付加された時の危険性。政治と思想とのバランス。死をもいとわず決める胆力と拙速を制御する胆力。思想をかかえ込む教養と文化力。本書は「歴史と人生」「政治と文化」「権力と民」を、水戸光圀の生き方そのものから自然のうちに考えさせる力作だ。


20121005きみはいい子.jpg大都市近郊の新興住宅地を舞台にして、子どもたちと親、教師が悩みと傷をかかえつつ、ある瞬間、ふっきれる。ほのかな光を見出す。そうした日常的な、しかし各個人にとっては人生の全てをかけた重大、深刻な心を描いた5つの短編集。

人は本質的に善性をもち、生きたい、希望をもちたい。救いが欲しい。「私は悪い子なんだ」「ごめんなさい」という世界から脱して「きみはいい子」と、誰か一人でもいい、思ってくれる人がいれば乗り越えられる。そんなことを学校、子どもたちの繊細な心の襞にふれながら描いている。

昨今の陰湿で残忍な"いじめ"問題。皆、忙しくてイライラして、子どもの純で繊細な心に、時間をとって、ごく普通にふれあうことができなくなっている。人はそれぞれの事情と宿業をかかえて黙しながら生きている。


20121002宇宙はなぜこんなにうまくできているのか.jpg「ケプラーの法則、万有引力の法則、相対性理論」
「太陽の核融合とニュートリノ」
「星の一生とブラックホール」
「惑星と作用・反作用の法則」
「曲がる空間」
「暗黒物質(原子でできていない)の存在を裏づける重力レンズ効果」
「アンドロメダ銀河に吸収される天の川銀河」
「宇宙は定常ではなく、始まりがあり、膨張し続ける」
「光の正体」
「四つの力と素粒子の標準模型」
「陽子と中性子を構成するクォーク」
「フェルミオンとボソン」
「インフレーション宇宙論」
「マルチバース」・・・・・・。

宇宙全体で、原子でできている通常の物質は4.5%、暗黒物質は23%、暗黒エネルギーが73%――。宇宙は生きており、動いている。

前著「宇宙は何でできているのか」は、難解きわまる宇宙と素粒子の世界を「これでもか」というほどわかり易く書いてくれているが、本書はさらにわかり易い。

奇跡的によく地球が生まれ、人間が生まれる状況ができたものだ。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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