暁天の星.jpg明治6年、征韓論で政府が分裂。明治10年、西南戦争で西郷隆盛が死ぬが、陸奥宗光は政府転覆計画に連座したとして、国事犯として5年の禁獄に処せられた。西郷、大久保が相次いで亡くなった後の明治10年代から日清戦争までの間、陸奥宗光は欧米列強と闘い、「不平等条約の改正」に命を懸けた。その心中は「明治になって初めて日本人は生まれたと陸奥は思っていた。それまではそれぞれの藩に住む者の集まりが日本人であったが、いまや誰もが日本人として平等であり、国家に対して、『義務あり、権利あり』と陸奥は主張している。......明治政府は、藩閥政府になりはてている。日本は日本人の日本である。薩長の日本ではない」と声を高くして言いたかったのだ。それは「日本を洗濯したく候、と唱えた坂本龍馬の理想とするところでもあった」と描かれる。

葉室麟の未完の遺稿。「作者は挫折や失敗を味わった人物を好んで主人公にする。ひとは生きていくことで、挫折や失敗の苦渋を味わう。そうなると、歴史を見つめてももはや『勝者』の視点は持ち得ないと作者(葉室麟)はいう」と解説の細谷正充さんは言っている。味わい深く、力むことのない葉室麟の逝去は残念だ。

「陸奥は剃刀と仇名されるほど鋭い頭脳をもっている」「紀州の出である」「藩閥政府を厳しく批判した」「伊藤博文に可愛がられ信頼された」「美しい女性・亮子を妻とした」「亮子は鹿鳴館の華と呼ばれたが夫婦とも鹿鳴館には違和感を持っていた」「機略縦横・坂本龍馬に魅かれ兄事していた(外交の才)」......。日清戦争をなぜ遂行したか。不平等条約を改正するためと苦悩する陸奥宗光。それに対する勝海舟の反対は、キレ味抜群。本書に特別収録された「乙女がゆく」も、龍馬とその姉・乙女の関係が活写され、とびきり良い。


老いと記憶.jpg「加齢で得るもの、失うもの」が副題。増本さんは、認知症や記憶障害、加齢と記憶に関する研究、高齢者心理学・認知心理学の専門家。高齢期はさまざまな喪失の期間、しかも寿命と健康寿命の差は約10年、どうこの10年間を悔いなく過ごすかが人生にとってきわめて重要。確かに加齢によって記憶は衰えるが、そのメカニズムはもっと複雑だ。

「加齢によって脳全体に均質に変化がみられるわけではない。前頭前野の体積が加齢とともに最も萎縮し、次いで海馬を含む側頭葉、頭頂葉、後頭葉の順に萎縮がみられる」「経験した記憶、思い出はエピソード記憶と呼ばれるが、10代から20代にかけて経験した出来事を多く思い出す(5年以内のエピソード記憶は加齢によって低下する)」「記憶は、経験を情報として頭に入力(符号化)、それを保持(貯蔵)、必要な情報を思い出す(検索)、の3つのプロセスを経るが、加齢による萎縮が顕著な前頭前野が、符号化と検索を担っている」「鍵やメガネを置いた場所を忘れるのは符号化、名前が出てこないのは検索の問題」「思い出せない部分はストーリーで補う。経験した事実と異なる記憶(虚偽記憶)が高齢期には増加する」「知識の記憶は意味記憶という。知恵にも通ずる意味記憶は加齢による低下がみられない。知識は知恵の基盤となる(一を聞いて十を知る)」「興味は記憶を促進する。感情は扁桃体が働くことで喚起される」――。記憶の持つ意味と構造が解説される。

そして認知症。なるかならないのか、どうコントロールできるのか。修正可能な認知症リスクが示される。「若年期の教育が認知の予備力を獲得する(低い教育レベルだと8%のリスク)」「中年期の難聴(9%)、高血圧(2%)、肥満(1%)で12%のリスク」「高齢期の喫煙(5%)、うつ(4%)、運動不足(3%)、社会との接触の低さ(2%)、糖尿病(1%)で15%のリスク」という。そして個人で修正できない要因が65%ということは、「認知症の予防だけでなく、認知症になってもQOL(生活の質)をどうすれば維持でき、介護の問題を克服できるか、社会全体で考える必要がある」という。

そして「幸福感を得るための脳機能は衰えにくい」「ポジティビティ・エフェクト」「感情のコントロールは人生をかけて上達する」「老いを受容し、年老いても成長し続けるためのやる気と努力」等を示す。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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