「財政(赤字)」「異次元の金融緩和」「デフレ脱却」、加えて「電子・暗号通貨の流通」「キャッシュレス化」「MMT」などが話題となる新時代――。本書はあらためて「貨幣とは何か」を問い直す。しかもそれを「歴史から経済学的な知見を導き、検証」する。「貨幣から見る歴史」にも「歴史から見る貨幣」にもなっている。経済から見て貨幣とは何か、国家から見て貨幣とは何かである。
663年の白村江の戦いでなぜ倭国軍は敗れたのか。めざすは中央集権国家の樹立。広範囲に及ぶ安定的な統治があるとき、政府発行の貨幣は、貨幣としての役割を十全に果たすことができる。白村江の敗戦はまさに中央集権国家「日本」のはじまりであり、日本における貨幣を生むことになった。無文銀銭からはじまり、初の政府鋳造貨幣としての富本銭、初の本格的流通となった和同開珎プロジェクト、そして皇朝十二銭の消滅で古代貨幣史はひとまず終焉する。「新貨が旧貨の10倍の価値」では貨幣にとって最も重要な信頼を失い、稲や布での取引を行うようになった。平安時代後期の銭不在の時代だ。宋、明からの渡来銭、不足する銭とデフレーションの時代を経て戦国時代へ移るが、常に問われるのは「政府負債の発行と、それに耐えるだけの信用」の問題だ。
江戸時代は支配力を持った政権が浸透し、金融価値と名目貨幣を分離させ、貨幣発行益を得ることになる。元禄の改鋳により、日本の貨幣制度は「政府が発行し(政府負債であり)」「原材料価値と額面価値が無関係で(名目貨幣であり)」「誰でも貨幣として受け取るから貨幣として流通する(循環論法に支えられる)」に踏み出す。元禄、正徳、享保、元文、家斉・忠成のそれぞれの改革(失敗も)を経て、幕末は通貨問題・国際為替問題・金流出に苦闘する。政府発行の貨幣の強みは「納税に使えること」であり、政府発行益を手にできるのだが、「政府負債、名目貨幣、循環論法」の3つは重要な要素だ。
「貨幣とは何か」を歴史の変遷を通じて掘り下げ、現在の「財政」「金融・財政政策」「仮想通貨」の本質を突く。きわめて面白く秀逸だ。