28歳にして「終止符のない人生」とは何か、と興味を持ったが、反田恭平さんには確かに終止符はない。その深く、広く、3次元空間を爆走するエネルギーに驚嘆する。尻をぶっ叩かれた思いだ。
ピアニストの世界で、オリンピックやサッカー・ワールドカップのようなすごい大会「ショパン国際ピアノコンクール」で、日本人として51年ぶりの2位の快挙を遂げた反田さん。サッカー少年でもあった反田さんは、骨折を経てピアニストの道に没入する。2012年、高校在学中に日本音楽コンクールで第1位に、2014年にチャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院本学科に首席で入学。言葉もわからないロシアでの苦闘が語られる。2015年のイタリアの国際ピアノコンクールで優勝するが、これは無謀とも武勇伝ともいうべき挑戦で、およそ繊細だと思われるピアニストの真逆の行動と生命力に、何か心持よい笑いさえこみ上げる。「いかなる場所でも手を抜くな」「誰がどこで聞いているかわからない。チャンスは目の前にあるといつも思え」――TBS「情熱大陸」でも語っている通りだ。2017年より、ポーランドのフレデリック・ショパン国立音楽大学(ワルシャワ音楽院)に在籍。そして21年10月、第18回ショパン国際ピアノコンクールで第2位に輝く。言語絶する緊張感、一生を賭けた勝負が伝わってくる。かくも戦略性を持って挑むのか、壮絶な格闘技を思わせる。「1分1秒の瞬間瞬間に、永遠が凝縮されているかのような濃密な時間だった」「ああ、自分はなんと幸せ者なのか。ショパンに出会えたおかげで、僕の人生はこんなにも豊かになった。ピアノをやっていて本当によかった」「ステージでピアノを弾きながら、全身の細胞が歓びに打ち震えた。僕の夢のような40分間が終わった」と語る。
その凄まじさは、とどまることを知らない。ピアニストであるとともに、オーケストラを率いる指揮者でもあるのだ。さらに自身のレーベル設立、日本初"株式会社"オーケストラの結成、クラシック界のDX化、コロナ禍におけるオンラインサロンを立ち上げる。バーチャル・リアリティーとメタバースの未来に向け突き進み、アニメ音楽や映画音楽とクラシックの融合、さらには音楽学校設立プロジェクトに意欲的に挑む。文化芸術後進国・日本を覆し、「文化・芸術のソフトパワーによって新しい日本の未来を築く」「奈良を日本のワルシャワへ、いつの日か国際音楽コンクールを音楽の街・奈良で」「ハードパワーによって武力衝突しようとする殺伐とした世界を、僕は音楽の力によって変えていきたい」と言う。圧倒され、嬉しくなる。