jinrui.jpg「ソクラテス、孔子、ブッダ、イエスの生涯と思想」が副題。90歳を超える希代の碩学である著者が、壮大な人類史の史的展開と、その中で同時並行的に起きた精神革命が、何ゆえに生じたかを解明する。まさに壮大、古典世界の学問と実証を踏まえ、現代にも続く宗教・思想の根源を探り抉り出す。「筆者の考えでは」「筆者は」という言葉が頻繁に出てくるように、未知の領域に踏み込もうとする挑戦姿勢にも驚嘆する。感動的な著作。

これまでの人類の歴史には5つの大転換期があるとする。「人類革命」「農業革命」「都市革命」「精神革命」「科学革命」だ。本書が焦点とする「精神革命」は、第4の転換期で、前5世紀頃を中心として、ギリシア、中国、インド、イスラエルの4地域にわたって、並行して人間の精神上の大変革が起こり、哲学や普遍宗教の源点が定められた時代である。ソクラテスらのギリシア哲学、孔子に代表される中国古典的儒教、インドのブッダを主役とする仏教、イスラエルにおけるユダヤ教とキリスト教の形成におけるイエスの存在だ。第5の転換期は、17世紀に始まった「科学革命」、そして現代は人間だけではない宇宙・自然・人間を含んだ「環境革命」の転換期が始まると言う。宗教・思想を含めた人類史の中での「環境革命」という意味である。

人類革命、農業革命、都市革命が、それぞれ身体的、技術的、社会的変革を中心としていたのに対し、「人類はここに初めて精神内部の根本的変換を経験する。人間は個我に目覚め、それまでの神話的世界を超え、生身の目で捉えられる『超越者』『普遍者』を求め、そこから世界全体を統一的に捉え直し、その中での人間のあり方を自覚しようとする」「ギリシャ思想はロゴス的理論的、中国思想は直感的実践的、インド思想は瞑想的思弁的、イスラエル思想は超越的啓示的だと言う。農業革命以来の神話的、呪術的世界から脱し、都市革命後の抑圧的権力構造とも対決し、宇宙とも連関する新たな世界観の中での人間の内実に関わる「精神革命」が、ヤスパースの枢軸とは違い、4人の始祖を中心にして、前6世紀から後1世紀に東西で同時並行的に起きたのである。

本書は「精神革命とは何か」に始まり、「哲人ソクラテス――ギリシアにおける精神革命(ソクラテスによる「プシューケー()の発見に始まり、その魂の対象となる『イデア』の認識を経て、その最高のものとしての『善』の把握に至る)」「聖人孔子――中国における精神革命(周時代の『天』が地上に引き下されて人倫化されて『道』となり、それは当初『礼』であったが『仁』となる)」「覚者ブッダ――インドにおける精神革命(『苦』のもととなる『執着』の対象が変化して止まない『縁起』、つまり『空』に他ならないことが自覚され、そこから『慈悲』出現する)」「ユダヤの誕生――イスラエルにおける精神革命I」「預言者イエス――イスラエルにおける精神革命II(イエスによりユダヤ教における『律法」の概念とその形式化が徹底的に批判され、それを超えた直接的な神の『愛』が強調され、人々の真の救済へと向かう)」を詳述する。

また宗教と科学の関係について、宗教は「この世界でいかに生きるべきか」を問題とし、科学は「世界がいかにあるか」を研究するものとし、両者は決して無関係ではないことを念を押す。最後に「精神革命と現代の課題」について述べる。考察しつくされた壮大な人類史、人間の内実に迫る「精神革命」史観に感動する。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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