2035neno.jpg「失われる民主主義、破裂する資本主義」が副題。コロナ、ロシアのウクライナ侵略、AIの急進展など、2020年代の世界的地殻変動を経て、2035年の世界地図はどうなるか――。「世界最高の頭脳による未来予測」と帯にある。

フランスの歴史家、文化人類学者であるエマニュエル・トッドは、民主主義の制度は残ったが、習慣や精神が失われて民主主義は今後も破壊され続けるとして「まもなく民主主義が寿命を迎える」と言う。「私は高等教育を受けた人々が、人口の25%を占めたことが、ソ連で共産主義が崩壊した本当の理由だと考える」「ロシアは独裁だが、それは誰も何のイデオロギーも信じていない独裁だ。西洋で起きているすべての根源は『超個人主義の出現』と『社会の細分化』だ。人々は、家族や自分の生活のことを考え、民族や国家、全体のことについてはあまり気にしない」と指摘。エリートが富や政治力を独占するリベラルな寡頭制があらわになる。与那覇潤×市原麻衣子のセッションでは、新興国の存在感は大きくはなるが、インドも東南アジアも民主主義は深刻な状況であることを示している。マルクス・ガブリエルは、「危機の時代にこそ、『新しい啓蒙』が生まれる」とする。戦争やパンデミックといった世界的危機のなかから、大陸を超えた普遍的な道徳的価値を見いだすチャンスがあると言う。アダム・スミスもマックス・ウェーバーも、資本主義は、道徳的感情に根ざし、資本主義と倫理は両立しなければならないとする。歴史は、科学技術的、経済的な進歩を、道徳的・哲学的考察から切り離してきたが、哲学は、社会的自省の中核となるべきだと主張する。イマヌエル・カントの定言命法では「一人ひとりに人間性を見よ」と説く。そしてエネルギー危機の中で我々が使っているインターネットは、最も持続性の低いシステムだとし、「人類は変容と啓蒙の道を歩んでおり、進歩的な側面が勝利します」「デジタルは、反民主主義的存在であり、未来は世界の情報が統制され、デジタル権威主義体制に陥る」と憂慮している。

フランスの経済学者、ジャック・アタリは、「人類に求められているのは『利他主義』であり、今こそ『命の経済』へ舵を切るとき」と言う。脱成長ではなく、保健や教育、文化や体に悪い食べ物を減らしていくこと、「死の経済」を減らせと言う。「テクノロジーよりも、人間への『教育』に目を向けよ」と言うのだ。日本については、「日本とアフリカとのネットワークを構築せよ」「人口政策を策定せよ」「女性の権利拡大をし、外国人に対してより開放的になること」「同調の文化ではなく異論を称える文化を発展させること」とエールを送る。米国の経済学者、ブランコ・ミラノビッチは、所得分配と不平等、先進国の中間層の実質所得が象の鼻のように落ちる「エレファントカーブ」で名高い。「冷戦後に2種類の資本主義が顕在化した。米国主導のリベラル能力資本主義と、中国主導の政治的資本主義だ。中国共産党が実際に進めたことは、国家が役割を持つ資本主義、あるいは土着資本主義を作り出すことだった」と言う。東浩紀×小川さやかのセッションでも、「現在の不平等を解消するために、西洋型の資本主義だけを目標とするのではなく、相対化された視点で、資本主義の限界を捉えていることが重要」としている。また「SNSによって私たちが失ってしまったもの」として、「SNSは政治から『思考の時間』を奪っている」「民主主義にとって本当に必要なことは、『人々に考えさせること』」と言っている。本書に通底する極めて重要なことだ。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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