神宮寺藩七万石の江戸藩邸で差配役を務めている里村五郎兵衛。差配役は、陰で"何でも屋"などと揶揄されるが、藩邸の管理を中心に、殿の身辺から襖障子の貼り替えまで目配りする要の役職で、藩邸内の揉め事が持ちこまれるのは日常のこと。そんななか、桜見物に行った世子の亀千代ぎみが行方知らずとなる。直ちに探索に向かう里村だったが、江戸家老の大久保重右衛門は、「むりに見つけずともよい」と言い放つ。そこには、大久保家老と留守居役・岩本甚内との角逐があった。その岩本からは、「どちらにつくか」と言われるのであった。
「拐し」「黒い札」「滝夜叉」「猫不知」「秋江賦」の連作短編集。静謐で重厚、武士の世界の佇まいがじっくりと描かれる。いまや砂原浩太朗の世界。