惣菜と珈琲のお店「△(さんかく)」を営む仲睦まじい3兄妹。ヒロと1歳上の晴太、そして中学3年生の蒼の3人だけで暮らしている。ある日、蒼は卒業したら、家を出て、宿舎のある専門学校に行くと言い出す。ヒロは激しく動揺し反発する。実は3人は、血のつながりがなく、それぞれ親と切り離される事情を抱えつつ兄妹として深くつながり、助け合ってきたのだった。
「私たちは、やっぱりすぐに破れるつぎはぎでしかないのだろうか」「無邪気な晴太。蒼が生まれることで、養子の自分がすでに黒宮家にとって不要なものであることになんて思いも至らなかった。でも、その蒼もいらなくなって、こうして晴太と同じ家にたどり着いた」「蒼は私にも晴太にもよくなついていた。私たちははたから見れば、まるで兄弟のように一緒に暮らし、当たり前のように、蒼の保護者となって、人に関係を聞かれれば迷わず『兄弟です』と答えるようになっていた」・・・・・・。それだけに蒼が家から離れる衝撃は大きく、「お願いだから邪魔をしないで、やっと手に入れた場所を奪わないでと心が叫んでいた」のだ。
必死で家族であろうとする兄妹。家族という絆が切り離された時、足元のおぼつかなさだけが残る。しかし、この"事件"をきっかけにして、「私たちはゆっくりと小さな幸福を作ってこられた。三人の、三人だけのための小さな家の中で」から、それぞれが自立し外に踏み出そうとする。「私は一人の私でありたい。ひらめいたような心地で顔を上げた。誰のものでも、誰のための私でもない。ハワイでも日本でも、晴太や蒼がいてもいなくても、決して揺るがない私でありたい。それができなかったから苦しかった。小学校も、中学校も高校も、黒宮慎司の前でも、私は胸を張って立っていなかったから、ビクビクと卑屈に目の前を見上げていたから苦しかったのだ。晴太や蒼の不在に怯えたのだ」・・・・・・。
第11回ポプラ社小説新人賞受賞作。なかなか良い。