sinkuro.jpg「科学と非科学の間に」が副題。昨年のノーベル物理学賞は、「量子もつれの実験、ベルの不等式の破れの確立、量子情報科学の先駆的研究」として3名に与えられた。最近は「量子コンピューター」が大きな話題を呼んでいる。本書は、アリストテレスの物理学から量子もつれまで、「宇宙とは何か」「時間とは、空間とは」「生命とは何か」を追い続けた科学者・哲学者の戦いの軌跡を描く。そして「ニュートン力学、アインシュタインの相対性理論」から「量子力学、量子もつれ」に至る世界を、科学者たちの研究・論争を通じて、わかりやすく(それでも難解だが)解説している。著者も訳者も極めてクリア。特に、アインシュタインとユングとパウリの交流など、人間模様は面白い。ユングは、精神的に不安定だったパウリの治療を行っていたようだが、心理学と物理学が触発しあい、非因果的な作用としてシンクロニシティという概念に到達する。パウリは量子力学の「量子もつれ」、ユングは深層心理学から「シンクロニシティ」に迫ったわけだ。

ニュートンは「重力」によるニュートン力学を示し、アインシュタインは「この世に光の速度より早く動くものは存在しない」「時間と空間は歪む」との相対性理論を提唱したが、量子もつれについては「幽霊のような遠隔作用」と断じた(アインシュタインはニュートンの「遠隔作用」を棄却した事が自身の主な功績の一つだと考えていた)。光などの伝達ではなく、瞬時に、それも遠い宇宙の彼方であっても相関する量子もつれは、不可思議極まりない現象であったのだ。それは幾世紀にもわたって考察されてきた原因が結果をもたらすという思考、原因の発生と同時に起こりうる現象など存在しないという思考に根本的な揺さぶりをかけることになる。昨年のノーベル物理学賞「量子もつれの存在」は、宇宙と小宇宙たる生命の真理について、またアインシュタインも認めなかった量子力学について、画期的な通過点(重要な一里塚)となるものだ。

20世紀初頭のアインシュタインの偉大な功績は、誰人も認めるものだが、ハイゼンベルク(1927年に不確定性原理発表、微視的な世界では位置と運動量、時間とエネルギーといった特定の組の物理量を同時に正しく測定することができない)、シュレーディンガー(電子が物質波であると想定し、その波動を力学的運動方程式・シュレーディンガー方程式の解であるとして表した)らの量子力学の一方で、パウリとユングの交流が、「量子もつれ」と「シンクロニシティ」が連関する思考を生んだ。1952年、ユングとパウリは2人の研究の集大成として共著「自然現象と心の構造」を発刊している。不思議なシンクロであり、もつれのような気がする。集合的無意識、対称性の力、スピンの謎めいた性質、光の速度よりも早く瞬時にシンクロする量子もつれーー量子論は物理学のみならず、宇宙論、生命論、化学や生物学、そして量子コンピューターなどの科学技術社会にも衝撃的なパラダイムシフトを生んでいる。研究の激流は速い。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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