metaba-su.jpg著者の2016年に出版した「人工知能と経済の未来」は刺激的で、特化型AIを超えて2030年頃から汎用AIが登場すると言っていた。シンギュラリティをはじめとする予測が一旦沈静化したが、今またチャットGPTが話題を呼んでいる。AI技術の進展はこれからも進む以上、課題に取り組む事は重要だが、同時に日本としては、デジタル遅れの現実を見て、進める力を加速する必要がある。熱い目が注がれるメタバース。著者は、すでにメタバース後進国になりつつある日本だが、「メタバースは日本経済逆転のチャンス(日本には、漫画やアニメなど、メタバースにふさわしいコンテンツがたくさんあり能力もあり有利)」「アニマルスピリッツを取り戻し、資金を思い切って投入して実行せよ」「先端技術と伝統文化を生かすサイバーオリエンタリズムと日本未来主義でエンジン全開で突き進もう」と呼びかける。

「メタバースの普及は、身体性の喪失や運動不足といった問題をもたらす可能性がある。一方で、通勤ラッシュ、都市部の高い住宅価格、地域間格差、地球温暖化といった問題を解消し得る力を持っている」「対人恐怖症やコミニュケーション障害を抱えた人たち、体が不自由で、寝たきりの人たちが、人と交流したり、自由に活動したりできるようになり、弱い立場の人たちのQOL(生活の質)を高めることもできる。仕事や教育の効率性、豊かな娯楽を享受し、経済、文化の新しい可能性にも満ちている」と言う。人間の本質とは何か。パスカルは「人間は考える葦である」と言ったが、考える機械・ AIが出現して、思考が人間だけではないとなると、「人間は意識を意識する動物である」。そこに動物やAIとの違いがあると言う。

「人類は、今から20年以内に、目覚めている多くの時間をコンピュータ上の仮想空間で過ごすようになる。私は本気でそう考えている」「この世界は、実空間をデジタル技術によってコントロールし、住み良い社会にしていく『スマート社会』と『メタバースの世界』に分岐する」「AIやロボットによる生産活動の自動化の果てにやってくる経済は『純粋機械化経済』で、AIやロボットを含む機械だけで、およそ生産活動が行えるようになる。2045年から60年ぐらい。人間の仕事はクリエイティビティー系、マネジメント系、ホスピタリティ系のCMH」「純粋機械化経済は実空間。メタバース内の経済は、労働者も機械設備もいらない『純粋デジタル経済』。その特徴は①資本財ゼロ②限界費用ゼロ③独占的競争――の3つ。そして、供給と空間と移動速度の無限性といった性質を持つ」・・・・・・。

さらに「メタバースとお金の未来」「資本主義はどう変わるか?」で、仮想通貨、DAOなどの分散型組織に論究する。「仮想通貨やDA O、NFTといったW e b 3・0的な技術は広く使われるようになり、メタバースも普及して、資本主義は新たな段階を迎えると思う」と言う。「頭脳資本主義」だが、実物財の世界では、AIなどの先端技術が生産性やイノベーションに与える影響は大きい。一方、デジタル経済の方では、資本財がほとんど必要ないので、デザインのできるクリエイター、面白いアイディアを出す人、イベントをプロデュースできる能力のある人などが活躍する世界になる。低所得層が増え、中間所得層も少ない。ゆえに「ベーシックインカムが必要」と言う。地球温暖化を防ぐために、最今は脱成長の「減速主義」を唱える者もいるが、著者は成長を目指し驀進する「反緊縮加速主義」を主張している。

「人類が身体を捨て去る日――メタバースの先にある未来」――。身体性の欠如は、今後の悩み深い問題だ。「BM I(脳と機械を通信させる技術)」は、障害や病気の人にとっては救いとなる技術。BB I(脳と脳を通信させる技術)は、自分と他人の脳をつなぐわけだから、極めて恐ろしい」と述べている。大変な問題であるだけに、早くからの議論が不可欠となる。人類の未来はユートピアでは無いのかもしれないし、ディストピアでもない。まさに人間にかかっている。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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