「脳科学者とマーケターが教える『買い物』の心理」が副題。マット・ジョンソンが脳科学者、プリンス・ギューマンがマーケター。いかに企業が広告などによって、消費者の思考や感情を刺激し、「欲しい」を導くか。消費社会の隠れた仕組みを明らかにする。大変興味深く面白い。「広告の時計の針はきまって、10時10分を指している。10時10分の位置にすると、時計の針が笑顔に見え、見る人の感情にプラスの影響を及ぼし、購買意欲を高める」「ファストフードのロゴは、赤か黄色。赤は生理的な刺激を生む色で無意識に切迫感を伝達し、黄色は無意識に親しみやすさや楽しい感情を伝達すると信じられてきた」「脳の神経活動を観察するf MRI装置を使ってワインを飲んだ時の快楽中枢の反応を調べたところ、『高価なワイン』と告げられて飲んだワインの方が『安価なワイン』と言われた時より快楽中枢は激しく発火した」「amazonのaの文字の下から zの下まで矢印が伸びているマークは笑顔の形を示している。矢印は輸送。それで購買意欲を高めている」・・・・・・。消費者が知らないうちに巧みな戦略があるわけだ。人間の心理には快と不快、論理と感情、知覚と現実という大いなる矛盾が潜み、人は、危険と安心のどちらにも惹きつけられる生き物だ。本書は、さらに、神経科学の観点からの記憶、意思決定、共感、つながり、ストーリー、サブリミナル効果、注意、体験とはどういうものかを消費主義という文脈から抉り出している。「見えていなかったものを見る力を手に入れたゆえに、乗客ではなく、パイロットとして消費の世界で舵をとっていけるはず」と消費者に呼びかけている。
「脳の感覚で、ダントツでいちばん強いのは視覚だ。視覚は大脳皮質の大部分を支配し、視覚情報の処理と解釈だけに、脳の約3分の1が使われている」「ブランドは思いに基づくメンタルモデルに入り込む」「脳は常にアンカーを下ろす場所を探している。アンカーを固定する(比較の基準)」「感情の記憶とピーク・エンド効果(出来事のピークは、出来事の記憶に影響を及ぼし、最終的な印象を決定づける)」「YouTubeが自動再生機能を実装したすぐ後に、Netflixが『次のエピソード』を自動的に再生するというよく似た機能を採用し、シリーズ物を視聴すると、次の回が自動で再生される流れを初期設定とした」「この空腹による衝動買い狙いに特化したマーケティングを繰り返し行っている企業がある」「脳科学で衝動に耐える力を表す尺度・ Kファクターを利用した販売戦略が行われる。 Kファクターが下がれば購入意欲を抑えにくくなる。『期間限定』『数量限定』『送料無料』などはそれだ。脳科学や心理学の知見を応用しているのだ」「快・不快が購入にどう関わるか。快は①あっという間に消える②偶然性を好む③人が未来に得られる快を予測する能力はとても低い」・・・・・・。
脳は考えることや計算を嫌う。通貨にしても、日常生活においてもデジタル化がさらに進み、頭に入って来やすい情報で、自分を取り巻く世界を形作ってしまう。それが依存へと発展する。「共感と人間同士のつながりーーブランドが密かに使う言語。集団よりも、一個人のストーリーへの共感が強いことを広告は利用する。説得力のあるストーリーほど強力なものはない」「目で処理できないほどの短い時間のサブリミナルではなく、目の前のありふれた風景に溶け込ませる方がよほど効果的。ミドリミナル・プライシングだ」・・・・・・。
脳科学と心理学、マーケティングを駆使して、次から次へと具体例が示されて、極めて刺激的で面白い。果たして、私たちの「欲しい!」という感情は、本当の自分なのだろうか。