国際犯罪はこれからさらに増え、密輸等の経済犯罪のみならず、そこに政治的陰謀があれば、さらに深刻化する。帯で手嶋龍一氏が「ニッポンに香港・北京の公権力が密かに棲みついてしまった――西側のインテリジェンス・コミュニティはそう疑っている。そんな現実をリアルに描いた警察小説が誕生した」と言っている。単なる警察小説ではなく、「井水不犯河水(井の水は河の水を侵さず――江沢民の言葉で、中国と香港は、相互不干渉が最善)」「香港に民主はないが自由はある」「命運自主(自ら運命を切り拓く)」の三章からなるド迫力の小説。
香港で2021年、大衆を扇動して422デモを実行、さらに助手を殺害して日本に逃亡したキャサリン・ユー元教授。彼女を逮捕送検すべく捜査にあたるのは、香港警察の5名と日本の警視庁組織犯罪対策部国際犯罪対策課特殊共助係5名で構成された新設部署「分室」だ。警察内部では、厄介者ばかりを集めた香港警察の接待係の部署とされ、「香港警察東京分室」と揶揄されていた。
キャサリン・ユーの足跡を追い、密輸業者のアジトに潜入すると、いきなり香港系の犯罪グループ「黒指安」が襲撃してくる。彼女を監禁していたのは、「黒指安」と敵対する犯罪組織「サーダーン」。いきなり激しい銃撃戦に「分室」メンバーは巻き込まれ、互いに馴染めず思惑を抱えていた日本と香港の「分室」メンバーの心が次第に融けていく。逃亡するキャサリン・ユー、それを助ける者たち、殺そうと追いかける集団、そして「分室」メンバー。
「なぜ、穏健なキャサリン・ユーはデモを起こそうとしたのか」「彼女が会っていた若い男とは何者か。それがデモの扇動と関係があるのか」という問題。そしてその奥には、「2047年問題。香港の一国ニ制度が消滅する年の中国内部の主導権争いがある」「特殊共助係が設立されたのも、24年後の戦いに備えての布石」「その駒として動かされているのは、日本と日本警察」があるという仮説にたどり着いていく。
犯罪の奥にある時間的、空間的な大きさ、ど迫力のアクション。際立つ「分室」メンバーのキャラ。熱量溢れる力作。