setugan.jpg2003年に作家デビューし、発表してきた短編ミステリー小説は120編超。作家生活20年を記念して、著者自選の5編と本に未収録のデビュー作品を大幅修正したものを加えた選りすぐりの計6編。いずれも絶妙、緊迫感は凄いものがある。

特に面白かったのは「迷走」――。消防の救急本部に属する消防官・蓮川とその上司・室伏隊長。腹部を刺され出血多量の男性被害者を救急車に乗せるが、対応できる病院がない。一刻を争う戦いのなか別の救急事案が発生、しかもこれに複雑な人間関係がからむ。緊迫感がぐいぐい迫る。電話中に倒れた人物の居場所をサイレンの音で突き止める救命士の迫力は、凄まじい。

「小さな約束」――。腎移植を待つ刑事の姉。主治医であり思いを寄せる相手でもあった男が海に転落死する。自殺の場合は、親族への優先提供はできないという問題が絡んでいるようだった。

「わけありの街」――。会社員殺害事件の捜査が難航するなかで、被害者の母親が田舎から出てきて、息子の住んでいたアパートを借りる。母親はなぜか「日本の刑法では確定裁判を経ていない二個以上の罪は『併合罪』とされ、まとめて審理にかけられる決まりになっている」ことをよく知っていた。そこで母親が打ったしたたかな手は?「あなたがわたしだったら、どうしていましたか」――。言葉を失う。

「黄色い風船」――。死刑囚を担当する刑務官の苦悩。担当する死刑囚は、顔と目が黄色で腹部に張りを覚えていた。「胸の中にある不安を風船の中に吹き込んで、全部ここへ吐き出せ」・・・・・・。世の中には、特定の匂いに強く反応する犬がいるようで、刑務官が奇想天外な手を考える。

「苦い確率」――。「ギャンブルの必勝法は、まるでツキのない奴を見つけて、その逆を張ること」――怖いが軽妙、ユーモアすら感じる作品。

「真夏の車輪」――。成績にこだわる高校時代。高校野球を応援に行った野球場で、自転車がパンク。そこで自転車を盗んだ高校生と、盗まれた高校生の焦りと苦悩。あるなぁ。こういう深みにはまることが・・・・・・。良い事はひとつもないのに。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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