ao.jpg「三島屋変調百物語九之続」として、「青瓜不動」「だんだん人形」「自在の筆」「針雨の里」の4章より成る。江戸の袋物屋・三島屋の「黒白の間」を舞台に語られる変わり百物語。訪れた客が胸に秘めた不思議な話を語り、心の澱みをきれいに流し重い荷物をおろす。聞き手であったおちかが嫁ぎ、いよいよ出産間近。三島屋の面々は緊張する。あとを継いだ富次郎は、「自在の筆」「針雨の里」など心震える話に、自身の曖昧な人生姿勢を改め、自覚的に「変わり百物語」の聞き役になり、聞いた話をさっと墨絵に描く肚を決める。

「青瓜不動」――。お奈津という15歳の娘が父親のいない赤子を孕んだ。死んだ母に代わって助けてくれた叔母も村外れの投げ込み墓に葬られる。「そんなのひど過ぎる!その瞬間、お奈津は何から何まで嫌になった」。誰も住まない荒れ果てた寺に住み、青瓜を育てることに。「この青瓜たちは、身を捨てて他者を生かす慈しみの化身だ」。そこの土から不動明王像「うりんぼ様」が出てきた

「だんだん人形」――。味噌と味噌漬が売り物の人形町の丸升屋初代の文左衛門にまつわる話。初代は寒い北国の藩にある味噌醤油問屋で住み込みで働いていた。商いで訪れた山間の村(三倉村)は味噌作りとともに、魔除けの縁起物の土人形作りが盛んだった。そこで美貌でつるつる頭のおびんに出会う。思いやりのある代官が突如として、悪代官に代わり、村は弾圧され、おびんの恋する男も殺される。初代とおびんは追っ手を避けて村から逃げ、藩に代官の悪行を知らせようとする。「一文さん。その辛い道中で、いったい何度、これでもう命がないと思った?」とおびん。初代が「四度」と言うと、武者の土人形が渡された。この女の執念が込められた土人形がまさに「だんだん(元気な、威勢のいい)人形」。危機の時に代々を救いに現れて

「自在の筆」――。病気で描く力を失ってきた絵師が、その能力を取り戻そうと、周りの人間を不幸にする筆の魔力に取り付かれてしまう。「己の才を縦横に活かして暮らしていたお人が、何かの事情で、それを失うことになったら、どれほど悔しく切ないことでしょう」と富次郎が思うのだ。

「針雨の里」――。語り手は右腕のない男。江戸よりも暖かな緑豊かな藩。その近くにある御劔山の狭間村は、迷い子や捨て子が連れてこられて成り立っている小さな村。鳥の羽毛と卵で暮らしていける。しかし「雨にはよく気をつけなきゃならねぇ」「降ってくるのが雨粒じゃないからさ。まるで縫い針みたいな、細くて鋭い氷柱みたいなものなんだよね」と言い伝えられていた

凄まじい苦難、理不尽な仕打ちに会いながら強く、生き抜く女性の姿。生きるのにたくましい子ども、それを支える男たち。神仏が今よりずっと近くの日常にある時代。欲の怖さや悪業の結末、人間の業や弱さ、そして人情が巧みに描かれる。よくもこんなに多くの物語が紡がれるものだと感嘆する。公明新聞に、20218月から約1年連載された。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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