群雄割拠した16世紀の戦国時代――。愛知(織田信長)、岐阜(竹中半兵衛)、福井(富田長繁)、石川(前田利常)より東側、23県からそれぞれひとりの武将を選んで描く。勇将の人生のキラリと光った瞬間を切り取って描くが、その人物の覚悟、怒り、意地、情愛、胆力、決断、悲哀などが凝縮されて浮き彫りになる。絶妙で鮮やか、感動的な作品。
豪勇の「上州の黄斑」長野業正が真田幸隆にかけた思いの書状(群馬)。人質・竹千代の値(徳川家康、愛知)。北条氏政の「汁かけ飯の戦い」(神奈川県)。里見義弘の青に恋して(千葉県)。刺客の阿呆と家臣の阿呆、織田信長の教えた臆病(愛知県)。鬼神の如き豪傑・矢島満安(秋田県)。生き写しの男がいる今川義元(静岡県)。最上義光が感じた父の厳愛(最上義光の裸の親子)(山形県)。太田資正の飼っていた50匹ずつの犬(武州を駆ける、埼玉県)。武田信玄が謙信に送った書状と三方原の戦い(山梨県)。「おりゃあ、槍一本で国を獲れる」と豪語した富田長繁(福井県)。武田の「風林火山」を掲げて信長勢を追い払った上杉謙信(新潟県)。宿敵・武田信玄と上杉謙信の深い絆が、2つの短編でよくわかる。
津軽為信と素晴らしい妻・お福(青森県)。佐々成政の「さらさら越え」で見たもの(富山県)。蘆名家の雅なる執権・金上盛備、なんと清々しい老骨の文人武将の執念(福島県)。完璧を目指した竹中半兵衛(岐阜県)。「耐えよ、必ず春は来る!」と多気城を守った宇都宮国綱(栃木県)。鬼の生涯・佐竹義重(茨城県)。風の中のレラと蠣崎慶広(北海道)。秀吉に取り入った傾奇者・伊達政宗(頂戴致す)(宮城県)。北松斎の空鉄砲(岩手県)。前田利常(猿千代)は鼻毛を伸ばしていた(石川県)。家を残し、名を残し、真田の名を轟かせる親子(真田の夢、長野県)。
いずれも切れ味鋭く鮮やか。面白い。