matigaeru.jpg人の脳とは凄いものだ。複雑で不思議、総合力、展開力、自在無碍のようだ。「人はまちがえる。脳は、どんなに頑張っても間違えてしまう。コンピューターは忘れないし、正常に働いているコンピュータはまちがえない。脳は情報処理、脳内の信号伝達が本来、不確かで確率的である。ゆえにまちがえながら働く」「しかし、脳がまちがえながら働くようになっているからこそ、新たなアイディアを創造し、様々な高次機能を出現し、損傷しても回復できる」「AIと脳は本質的に異なる」ことを、最新の研究成果を踏まえて解説する。

脳の信号伝達は「ニューロンの発火とシナプスで受け渡す」ことが中心だが、ニューロンの形態も極めて多彩、シナプスを介したニューロン同士のつながり方も多様、ニューロンが発する信号の流れも実に多様。「ニューロンは協調して働き、同時発火により信号をより高い確率で伝える。集中時や正解時などに同時発火が現れる」「しかし、集団を作る個々のニューロンが、低確率で不確実な信号伝達により発火していることは変わらないため、そこから生じる揺らぎにもある程度変動が生じることは避けられない(エラーが起こり、人は時々まちがえる)」「脳はコンピュータのような機械とは、本質的に異なっており、人が創造可能な精密機械として理解することは難しい」と言う。しかも「脳の活動が心を生んでいることは自明だが、逆に、心が脳の活動を制御できることもわかってきた(脳を機械に例えることができない決定的な理由)」のだ。

そして「結局、マクロな脳部位のレベルでも、ニューロンレベルでも、そして神経伝達物質と遺伝子のレベルでも、脳の特定の機能を単独で担うものは存在していない。----脳の機能は、多様な部位、多様なニューロン、多様な神経伝達物質、そして多様な遺伝子が相互作用しながら働くアンサンブルによって実現されていると考えざるを得ない。そのアンサンブルの姿を解明した時こそ、脳を解明したといえるのであろう」と結ぶ。

「迷信を超えて――脳の実態に迫るために」の章では驚かされた。「反右脳左脳神話」――。左脳が言語や論理に関わっており、右脳は感性や視空間認知に関わっているというのは迷信。現在、唯一いえるのは、言語機能が左脳で優位の人が多いということぐらい。「反男脳女脳神話」――。女性差別を正当化するため、脳の違いを「科学的」の根拠として利用しようとしてきた代表例が、言語に関わるブローカ野の発見で有名なブローカだった。脳が大きければ機能が優れている論理は成り立たない。男女の差よりも個人差。また前頭葉は高次機能、頭頂葉は空間認知、扁桃体は情動制御と特定の部位と特定の機能、一対一で対応させることは単純すぎ信頼性に欠ける。「反10%神話」――。脳は10%しか使われていないというのも迷信。脳は寝ている時も起きている時も休まず全体が働いている。「脳の血流量の増大、つまりニューロン集団の活動量の増大は、必ずしも機能の向上にはつながらない」と指摘、「脳トレ」に否定的見解を示す。

「人は分類が得意である。しかし、分類と言う方法論だけでは、脳の最も重要な特性である多様性と可塑性、つまり、人の多様性と可塑性を説明できそうもない」と言い、「脳はいい加減な信号伝達をして間違えるからこそ柔軟であり、それが人の高次機能を実現し、一人ひとりの成長を生み、脳損傷からの回復を促し、個性を作っている」と言っている。極めて刺激的な著作だった。 

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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