hashimonogatari.jpg「橋」にまつわる10の短篇集。「駅」については世界の小説、映画などで名作が多い。人の出会いと別れのドラマとなる場であるからだ。江戸時代、「橋」はまさに出会いと約束と別れの象徴的な場となっていた。

このたび、「橋ものがたり」の中の冒頭にある傑作「約束」が、杉田成道監督・脚本によって映像化された。人の心の美しさ、橋や風景の何とも言えぬ映像美に心を洗われ涙した。藤沢周平の原作と脚本と映像を観て、芸術の素晴らしさを改めて感じた。

錺職人のもとに奉公していた幸助は、8年の年季がやっと明け、帰ることになった。幸助とお蝶は幼馴染み。「わたし・・・・・・幸ちゃんの、お嫁さんになる」と皆んなの前で言ったほどの仲。5年前、二人は年季が明けるその日、刻は暮六ツに、萬年橋で会う約束をしていた。しかし、互いに強く想いながらも、幸助には人に言えない秘密があり、お蝶にも辛い身の上の変化があった。そして約束の橋の上で・・・・・・。「できるさ。二人とも少しばかり、大人の苦労を味わったということなんだ」「お蝶が泣く声は、真直幸助の胸の中に流れこんでくる。幸助は自分も少し涙ぐみ、長い別れ別れの旅が、いま終ったのだ、と思った」。とても良い。

「小ぬか雨」「小さな橋で」「吹く風は秋」はこれまでに映像化されている。「小ぬか雨」――娘らしい華やかな思い出もないまま育ったおすみは、一人住まいをしている。下駄職人の勝蔵との縁談も決まっていたが、野卑な男で好ましい男ではなかった。ある夜、おすみの家に、若い男が「喧嘩をして追われているのでかくまってほしい」と駆け込んでくる。男は女を殺して追われているという。・・・・・・「もっと早く、あんたのような人に会っていればよかった。そうじゃなかったから、こんな馬鹿なことになってしまった」と若い男・ 新七は言う。・・・・・・「行ってしまった。新七が残していった傘を拾い上げ橋を戻りながら、おすみはそう思った。・・・・・・この橋を渡っててはならなかったのだ」。

「小さな橋で」――父が博打で姿を消し、姉も妻子持ちの男と駆け落ち、母は疲れ果て飲み屋の常連客の男にすがろうとする。十歳の少年・広次は嫌気がさしていたが、ある日、男に追われている父と偶然再会する。「吹く風は秋」――親分を裏切って、江戸を離れていた壺振り師の弥平は、老境に差し掛かり人生の区切りをつけようと、決死の覚悟で江戸への橋を渡る。そこでぼんやりと夕陽を眺めるおさよという女郎に出会う。なぜか心を惹かれた老博徒は・・・・・・。

「思い違い」「赤い夕日」「殺すな」などとても良い。「氷雨降る」「まぼろしの橋」「川霧」など、いずれも江戸の庶民の人情けが伝わってくる。 

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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