hannkure.jpg児童養護施設で育った山科翔太は、地元の先輩から誘われ、「カタラ」という会員制クラブの従業員になる。ここは若く見栄えの良い男たちが、言葉巧みに路上で女性をひっかけて店に来させ、挙句は借金まみれにした後に風俗に落とすことを目的とする半グレが経営する店だった。そこで有名私大に通いながら同じ仕事をする辻井海斗と親しくなる。2人は効率よく女性を誘うためにコンビを組んで成績を上げ、ついに関連の店を含めトップテンにのし上がる。しかしある日突然、カタラグループのトップや店のマネージャーと共に、翔太は逮捕される。公衆衛生または公衆道徳上、有害な業務につかせる目的で職業紹介や労働者の供給を送ってはならないという職業安定法第63条違反だ。世間で大きな話題にもなったこの「カタラグループ事件」で翔太は3年懲役の実刑、少年院入所歴のあることも響いたのか、執行猶予はつかなかった。海斗はその頃、体調が悪く出社しておらず、家柄も良かったせいか、事情聴取さえされなかった。

本書は「翔太の罪」と「海斗の罰」の2部で構成される。「翔太の罪」――3年後出所するが何もかもうまくいかない。「どうせ俺はカタラの人間で、前科者でヤクザなんだ」――前科がついて回ったのだ。そして、デリヘル嬢を乗せて待つステップワゴンのドライバーとなる。そんな時、モーパッサンの短編「脂肪の塊」を読む沙季という不思議なデリヘル嬢に出会う。そして外国の小説を翔太は読むようになる。コンラッドの「闇の奥」、アンナ・カヴァンの「氷」・・・・・・。そして「俺の罪は重い」――。翔太の運命は、子供の頃からの生命の奥底の深き闇へと突き進み、思いもよらぬ展開を見せていく・・・・・・。

一方で「海斗の罰」――。事件を免れた海斗は広告代理店最大手のアドルーラーの花形である営業企画部に所属する。そこで東京都、政府が後押しする新しい世界都市博の「シティ・フェス推進準備室」のナンバー2に抜擢される。利権渦巻くなか、広告塔のタレントのスキャンダル、パワハラ、政財界の接待やバックマージン、当初案の設計変更・・・・・・。半グレ集団の連続詐欺事件を含む最近の事件を想起させる事件の対処に、海斗は翻弄され我が身を振り返ることもできない。昔の半グレとの付き合いが復活し、ついに破綻に追い込まれる。

黒と白と灰色の世界。黒と白はわかりやすいが、問題は灰色の世界だと抉り出す。「平然と人様を踏みつけにする。しかも自分じゃわかってねえ。ナチュラルに薄汚ねえクソをまき散らす」「灰こそが、半グレの灰こそが、より人間的な分だけ邪悪なんだ。これは悪とは少し違う。悪じゃない。邪悪なんだよ」・・・・・・。翔太と海斗は再び会うが、心はなかなか交わらない・・・・・・。

しかし最後、海斗は視線を海へ向ける。「夕暮が闇に呑まれる半暮刻に、波が嗤うようにざわめき始めた」と何ともいえぬ余韻を残し描いている。そしてもう一つ、印象的なのは人の命を変える本の力だ。 

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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