「諜報活動が照らす組織経営の本質」が副題。CIAの前身(OSS)が1944年に作成した「敵組織をダメにするマニュアル」、一般市民向けのレジスタンス活動の手引き書。長い間、極秘資料として非公開だったが、機密解除となり、日本では2015年に発刊された。
このマニュアルの多くの部分は、現場で実際に働く第一線の作業員などに、「建造物では自分自身が去った後に、火災が発生するように手はずを整えよ」「空気取入口または排気弁に土やゴミを詰める」「油入変圧器は、オイルタンクの中に水や塩を混入すれば故障させることができる」「道路の交差点や分岐点において標識を変えよ。敵が道を尋ねてきたときには、間違った情報を提供せよ」など直接的指示を出しているが、極めて今日的に面白いのは、「組織や生産に対する一般的な妨害」「どのようにすれば、組織はうまくいかなくなるのか」の部分だ。
「形式的な手順を過度に重視せよ(迅速な決断をするための簡略した手続きを認めるな)」――今も決済手続き、文書主義がいかに弊害をもたらしているか。お役所仕事、官僚制の逆機能(ロバート・キング・マートン)だ。サボタージュ・ マニュアルでは「そして文書を間違えよ」と言う。
そして「会議を開き、議論して決定させよ」と言う。「みんなで決める」は良さそうだが、無責任で、評価を気にするから、発言は抑制される。会議は他人の腹の探り合いの側面もあり、少数派は多数派の意見に同調してしまう。本書では「スペースシャトル墜落の原因も危険性を指摘した発言が封殺されて『会議』で決めたから」を紹介している。
さらにマニュアルでは、「行動するな、徹底的に議論せよ」と言う。「演説せよ。できるだけ頻繁に、延々と話せ」とも言う。そして、「コミニュケーションを阻害せよ」と言う。自由な発言を封じ込める。リストラに怯える社員は「目立たない」ようにし、イノベーティブな発言は抑制される。
「組織内にコンフリクトをつくり出せ」――。対立・衝突をつくり組織内の人間関係を悪化させる。そして「士気をくじけ!」「非効率的な作業員に心地よくし、不相応な昇進をさせよ。効率的な作業員を冷遇し、その仕事に対して、不条理な文句をつけろ」と言う。頑張ってるものが「やってられない」となる。
人間が行う社会――いずれも「あるある」。心すべきことばかりだ。