未明の闘争.jpg

小説は物語、ストーリーの面白さと思っていたが、この「未明の闘争」は全く違う。あるのは生命の流れだ。その生命の流れが次々と絵巻物のように、しかも時空を飛んで連続する。記憶をエピソードとしてまとめず、自由に生命のおもむくまま飛ばす。思ったのは仏法の法概念。「法とは水(サンズイ)が去ると書くが、目の前の水は既に今あった水ではなく去っていく。しかし目の前の水は常に厳然と絶え間なく流れゆく。無常と常住の十字路に今の瞬間を位置づける。それが中道の生命である」――。その諸法実相の世界を時空を越えて描いたのだと思う。死んだ友人が目の前に現われたり、子供の頃の思い出が突然出てきたり、音楽や哲学がサッと現われたり、家族同然の猫の生老病死が語られたりする。しかもどれも温かい。

「人生の時間の流れに出遭いや出来事が点在するのではなく、出遭いや出来事が起きるそのつどそのつど人生の時間の流れが起こる」「現在とは何十年前であろうと、それを現在状態たらしめようとする記憶装置なんだ」「ジョジョは突然、"アオーン!アオーン!"とカン高い声で激しく鳴きながら、二階に向かって階段を駆け上がった。いまボッコの魂が去ってゆくのがジョジョにわかってそれを追いかけた」・・・・・・。「私は一週間前に死んだ篠島が歩いていた」という冒頭の一節から、定番とは違う世界にいきなり誘い込まれた。


木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか.JPG

木村政彦と力道山の試合は私の記憶に明確にある。伝説の男・木村政彦とはどういう人物であったのか。

「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」「戦前・戦後、15年間も負けなし、不敗のまま引退した男」「柔道で化物のように強い選手4人をあげれば、木村政彦、ヘーシング、ルスカ、山下泰裕だが、最強は木村」「鬼の牛島がつくった芸術品・木村」「昭和29年12月22日、巌流島の決戦、木村政彦対力道山戦の真実とは」「プロ柔道の旗揚げ」「エリオ・グレイシーを粉砕」「プロレスの夜明けと木村の悲哀」――不器用で荒くれ、ムチャ丸出しの若者・木村の生々しい生涯が活写され、悲しくもなる。

本書は、木村政彦とその師・鬼の牛島辰熊が主役だが、そこに嘉納治五郎、力道山、大山倍達、岩釣兼生らが交差する。いや時代自体が渦のように木村に襲いかかる。

正直面白い。興味深いのは一つに「柔道とは何か」「講道館柔道とは何か」を抉り出していることだ。嘉納治五郎は、古流柔術が廃れゆくのを嘆き、実践的武術、真剣勝負を志向し、たんなるスポーツになってしまうことを憂えたという。しかし、戦後、GHQの下で講道館は「柔道は武道ではない。スポーツである」として生き抜く道を探った。「柔道は1本。最近はレスリングのようになってしまった」というのは違う。元来、武道として真剣勝負としての柔道は"殺し合い""寝技も打撃も"であり、たんなるスポーツではない。それゆえにプロ柔道が立ち上がったという。

もう一つ、興味深いのは牛島と木村の師弟間における違いを描いていることだ。「東條や三船は"政治"をにらみ、石原(莞爾)や牛島は"思想"を見ていた」と増田さんは語っている。日本人、サムライ牛島だ。そして戦後、自らの堕落を絶対に許さぬ牛島と、坂口安吾の「堕落論」「救われるために墜ちよ」という言葉以上に、飲み、喧嘩し、自然体のなかで決定的に"堕落"を生きた木村の戦後という生き様の差異。力道山戦も、その後の失意と放浪もその帰結だと語っている。本書は徹底した取材で描きあげた戦中、戦後の歴史書でもある。


安倍政権365日の激闘.JPG

「景気・経済の再生」「東北の復興」「防災・減災・危機管理」を三本の柱として、とにかく遮二無二走った一年。本当に激闘の一年だった。リスクを負ってもやり抜く政治だったと思う。歳川さんは「挫折を通じて辛酸を舐めた安倍氏はリスクを取る政治家に変身したのは間違いない」「現在の安倍首相は、従前の安倍首相ではない。別人格である」という。

自然現象を想定外とするのは、過去の事象を直視しない(したくない)人間の性もあるが、政治は人が成すものだけに、より変数が多い。それだけに政局観には、多くの変数、キーマンに直接ふれて得る皮膚感覚、動態視力、人間観が不可欠だ。本書はその時々の政局を、そのまま載せている。当たりもはずれも当然あるが、むしろそれだけにどう観たかという視点があらわで面白い。それは「どういう人間か」「どういう人材の布陣か」「どう考えて決断したか」という人間観・人物観をもって"チーム安倍"に迫っているからだと思う。その人物観は世界に及んでいる。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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