繊細な真実.jpg「寒い国から帰ってきたスパイ」は、ル・カレの1963年の作だというから、50年にもなる。スパイ小説の巨匠ル・カレの23作目の長編。

イギリスが英領ジブラルタルで行ったテロリスト捕縛作戦(ワイルドライフ作戦)に、ファーガス・クイン外務閣外大臣によって駆り出された初老の外務省職員ポール・アンダーソン(偽名)。大成功だといわれるが、不審をもつ。一方、クインの大臣秘書官のトビー・ベルもこの事件への不審が消えない。

民間防衛企業<倫理的成果>の創設者ジェイ・クリスピンらの暗躍が明らかになるにつれ、"繊細な真実"の解明をめぐっての激しい攻防が繰り広げられる。


シルバーデモクラシー.jpg副題は「戦後世代の覚悟と責任」。我ら団塊の世代のことだ。1966年、日本の人口は1億人を超えた。その時、65歳以上の高齢者は約700万人。これから30年後の2040年代後半には人口減少によって1億人になるが、高齢者はなんと4000万人。選挙の投票率を考えると、高齢者の投票数の方が多くなり、「老人の老人による老人のための政治」となりかねない。その1966年には1人当たりのGDPが1000ドルを突破、1981年には1万ドルを超え、今は為替変動もあって4万ドル弱となっている。世界を見ても、トランプもヒラリーも団塊の世代。戦後70年、貧しきなかで自由と民主主義を確立し、「坂の上の雲」を見てきた団塊の世代が行き着いたのが、「英国のEU離脱」「トランプ現象」「新自由主義とリフレ経済学の複雑骨折」「マネーゲームと株高礼賛」「国際関係の緊張と脅威」「民主主義の軽さと国家主義への誘惑」「反知性主義的ポピュリズムの跋扈」という、荒涼たる光景だと指摘する。私生活主義と経済主義を身につけ、戦後日本の真ん中を生きてきた団塊の世代は今、後世に何を引き継ぐかが問われている。

「アジアの安定軸としての敬愛される成熟した民主国家」「日本・米国・アジア関係の再設計」「マネーゲームではなく、実体経済を直視し、産業を育てることによって国民経済を豊かに、かつ分配の公正を実現すること」「多世代共生、参画、多元的価値をもって幸福な高齢社会を実現」「孤立し暴走する高齢・単身の都市郊外中間層を再生する試み(食と農の都市再生シルバー事業)」などを提起し、シルバーが貢献する新たなデモクラシーへの旗を掲げる。


株式会社の終焉.jpg「終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか」「資本主義の終焉と歴史の危機」等々の著作に続いて、「株式会社の終焉」を示す。こうした歴史を俯瞰し今日を見た時、バブルの多発、英国のEU離脱、米国でのトランプ誕生、そして日本のマイナス金利も企業の内部留保金の積み上がりも、その潮流のあがきなのか。「現在の21世紀は、成長の積み重ねの上にあるわけではない。成長を目指せば目指すほど、21世紀の潮流とずれてしまう」「成長がすべての怪我を治すのではない」という。

「近代資本主義の"より速く、より遠く、より合理的に"を見直し、株式会社の終焉をしっかり見つめながら"よりゆっくり、より近く、より寛容に"という中世の原理に今一度立ち返ってみることが必要だ」という。GDPの三要素「技術進歩、資本量、労働量は、すでに成長に貢献していない。技術進歩が成長に寄与しなくなったのは、売上増以上に研究開発費などのコストがかかるようになってきたからだ。労働量、すなわち人口が減少するのは、家計の収入増以上に教育費がかかるようになったからだ」と指摘。労働分配率の是正と内部留保金の是正などのステップを示す。国も企業も「消費者があれもほしい、しかも早くほしい」という時代ではなくなっていることを見て、近代システムのベースとなっている思考自体を変えよ、近代はみずから反近代を生むようになったという。


「トランプ時代」の新世界秩序.jpg「トランプ大統領を誕生させたアメリカ社会の構造と亀裂」「民主党が政策も選挙戦術もいかに失敗したか」――。今、アメリカ社会で何が起きているかを剔り出し、日本は何を覚悟して未来に向かうかを提起している。

「トランプ時代の幕開け」「保守的なレトリックと中道の経済政策」「法人税率15%のインパクト」「意気揚々と撤退するアメリカ」「分断されるアメリカの深層」「共和党2010年当選組の苛立ち」「オバマ民主党で噴出した不満のマグマ」「ムスリム社会とラティーノ社会の摩擦」「誹謗中傷合戦と化した大統領選挙」「FBIによる落選の決定打」「トランプ現象の本質」「アメリカ社会における50年間の変化、20年間の変化、8年間の変化」「"普通の大国"としての孤立主義」・・・・・・。そしてトランプ現象はアメリカの閉塞感と国民の深層心理を踏まえて立ち上げられたものであり、これまでのアメリカ政治の構造を組み替える可能性を秘めている、という。

「変わりゆく世界の地政学」「"帝国の撤退"と世界秩序の行方」「日米関係の新たなる地平」「新・勢力均衡の時代」「TPPの挫折と東アジア経済圏」・・・・・・。日本は対話と協調を踏まえつつ、振り回されないで、自らの戦略で行動する時を迎えている。


加藤一二三.jpg「誰も語れない将棋天才列伝」と副題にある。たしかに、14歳で史上最年少のプロ棋士となって60年以上現役で戦い続け、あらゆる世代の棋士と対戦している加藤さんでなければ語れない将棋界の歴史、天才列伝だ。

関根金次郎、終生のライバル阪田三吉。木村義雄、花田長太郎。そして升田幸三と大山康晴。それを倒そうとした加藤一二三、二上達也、米長邦雄、山田道美、有吉道夫、内藤國雄・・・・・・。そして中原誠。さらに谷川浩司、羽生善治、佐藤康光、森内俊之、渡辺明・・・・・・。

「銀が泣いている」「たどり来て、未だ山麓」「勝負というのは一勝一敗、それなら成功」「前進できない駒はない」「"自分がよい手"ではなく"相手が嫌な手"」「いいときは焦らない、悪いときはあきらめない」「第一感で浮かんだ手は好手」「直感精読」「人間とソフトの最大の差は"大局観"」・・・・・・。「将棋界をつくった天才たちの求道心」が、率直に語られる。まさに"誰も語れない"将棋天才列伝だ。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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