騙し絵の牙.jpg激変する社会のなかで変化を迫られる出版業界。しかし、編集作業、編集する頭脳は人間のなかでも根源的ともいえる最重要のものだ――。「自分は何のために編集者になったのか」「昨今の出版業界の移り変わりを前に『このまま何もせずにいていいのだろうか』『現在この業界に本当に必要な存在とは何か』との問い」「思考を続ける人間には、真贋を見極める目が備わっている。本物を、上質を選ぶ慧眼を身につけることが、情報の波にさらわれない唯一の対抗策だ。思考の源は言語だ。言葉を探し、文化を育み続けることこそ、出版人の使命だ」――。

読者の活字離れ、激震の出版業界のなかで生き抜くことを迫られる雑誌の編集長・速水輝也。軽妙な会話、人を惹きつける力、心を通わせての信頼の獲得、好感度抜群、やり手の速水は、懸命に雑誌を守ろうと奔走する。しかし、社内の軋轢も加わって社を去ってゆくことになる。

しかし、やられっ放しと思いきや大逆転が待っていた。はたして速水の本性はどこにあり、その牙ともいえる執念は何によって築かれてきたのか。情報社会の急進展、変化を余儀なくされ、もがく出版業界のなかで、出版や編集の意味や人間の文化を問いかける。そのなか人間の泥臭さを交えて描く傑作。大泉洋を写真で使い、小説に映像を組み込んだ新しい試みまである。


おもかげ.jpg商社のエリート社員・竹脇正一。定年となったその日に、地下鉄で倒れ意識を失う。65歳。彼をこの世に生み出した母親と思しき人、彼を支えた家族・友人が次々に「おもかげ」として出てくる。彼は親を知らない、孤児となったいきさつも知らない。残酷な真実を胸の奥に蔵(しま)い続けて生きてきた。真っ白な戸籍。被い隠した劣等感の源でもあった。周りも同じような境遇の人が集う。親子の絆が切られていた妻・節子。両親が交通事故死して同じ養護施設で育った幼なじみの永山徹(親方)、両親の愛を全身に受けて育った娘・竹脇茜、その結婚相手で保護観察付きで親方に拾われた大野武志、そして集中治療室の隣のベッドの榊原勝男(戦災孤児)とそのマドンナ的存在であった峰子・・・・・・。

「無言の人生が詰まっている」静寂の集中治療室の中での回想は、「親を知らない」「子を棄てる」という究極の闇の深さを突きつける。「孤児にとって最大のハンディキャップは、愛の欠落ではない。むしろ、自分の人生の芯や核になりうるもの、あらゆる行為や道徳の基準となるものの欠如が問題だった」・・・・・・。それらをきわめて透明感をもった人間愛の世界に誘い描き切る。重苦しさがないのは「皆、貧しかったから」、そして右肩上がりの昭和の時代を生きたから、そして「あんたの人生、できすぎだぜ」との思いからだろう。深い感動作。


軍人が政治家になってはいけない本当の理由.jpg「政軍関係を考える」がメーンテーマ。何度も繰り返し述べられているのは、「政軍関係の概念」は「専門家集団である軍隊の国家機構の中における明確な位置付け、専門職としての軍隊と軍隊が守るべき国民との一体感、政治指導者と軍隊の指揮官の間の相互理解、政策決定過程における政治指導者と軍隊の指揮官の率直な意見交換、政治指導者による最終的な政策決定に対する軍隊の指揮官の徹底的な服従及び政策決定の過程と結果についての国民に対する説明責任――その全てを包含するダイナミックな相互関係」であり、「我が国においては、政治、自衛隊及び国民の三者の間で、この政軍関係の理解は著しく遅れている」ということだ。また民主主義国家における軍隊の在り方に関する4つの原則として「軍事専門性の追求」「政治目的と作戦目的の合致(そのための真摯な努力)」「政治決定に対する軍隊の絶対的な服従」「軍隊の政治的な中立性」をあげている。

こうしたテーマを米英、とくに米国の現在までの適切な政軍関係への葛藤と模索と構築課程を探り開示する。「何故、ジョージ・マーシャル元帥が米軍人から最も尊敬されているのか」「何故、ダグラス・マッカーサー元帥は米軍人から尊敬されていないのか」「湾岸戦争におけるコリン・パウエル統合参謀本部議長の判断は果たして正しかったか」「苦悩し続けたマイケル・マレン統合参謀本部議長は、何故、尊敬されているのか」を政軍関係から剔抉する。そして、民主主義国家日本が取り組むべき政軍関係の課題を提起している。


今ふたたびの、和泉式部.jpg多情な"浮かれ女"の真の顔とは――。年々歳々、季節が移りゆくように、式部は人生のその時々で恋をした。時には奔放に、時には命がけで・・・・・・心ならずも怒濤にまきこまれてしまったこともあったはずだ。その波乱に満ちた人生とは・・・・・・。

「冥きより冥き道にぞ入りぬべき 遥かに照らせ山の端の月」(和泉式部)

「この世をば我が世とぞおもふ望月の 欠けたることもなしとおもへば」(藤原道長)

「大江山いくのの道の遠ければ まだふみもみずあまのはしだて」(小式部内侍)

1000年代初頭、"恋多き女""浮かれ女"といわれながら、次々と秀歌を生み出す当代きっての女流歌人・和泉式部。常に恋の噂が絶えず、揶揄や悪口や悪評にまみれた式部。それは、権勢をほしいままにする藤原道長らの強引な策略に翻弄された姿でもあった。和泉守・橘道貞との夫婦を切り離され、心を奪われた帥宮、道命、弾正宮とも死別・離別。そして、壺井大将、鬼笛大将。心の支えとなった太皇太后彰子や藤原行成。娘・小式部内侍をはじめ、大切な人が次々に喪っていく。和泉式部はその寂しさ、苦しさ、辛い時に歌を詠み、歌が人生を救った。新しい角度で和泉式部に踏み込んだ力作。


逆襲される文明 日本人へⅣ.jpg「ヨーロッパは、進歩したと思いこんできた自分たちの文明に逆襲されているのである(残暑の憂鬱)」――。次々に押し寄せる難民、頻発するテロ。しかも人権尊重の理念によって難民の権利を保持することに対する市民からの反発。難題に頭をかかえるヨーロッパ。正邪を分かち攻撃性をもつ一神教のキリスト教、イスラム教、ユダヤ教。そして「ポピュリスト(大衆迎合)」ならず、民衆の不安と怒りを煽り、怒れる大衆と化した人々を操る「デマゴーグ」扇動家の台頭。「民主主義下のリーダーこそ、大いなる勇気と覚悟と人間性を熟知したうえでの悪辣なまでのしたたかさが求められると思っているが、メルケルなどEUのリーダーにはその資格が欠け、リーダー不在」とスパッと言う。「民主政が危機におちているのは、独裁者が台頭してきたからではない。民主主義そのものに内包されていた欠陥が、表面に出てきたときなのである」「現実的な考え方をする人がまちがうのは、相手も現実的に考えるだろうから、バカなまねはしないにちがいない、と思ったときである(マキャベリ)」・・・・・・。

2013年11月から2017年9月まで「文藝春秋」に掲載されたものだが、ヨーロッパの経済危機、難民、テロ、EUのかかえる矛盾とリーダー不在、そして日本についての考えが述べられている。日本に今もはびこる「観念的理想主義」ではなく、「現実的理想主義」から、"笑える"現実を突きつける。ユーモアや冗談、「アイロニーとは、上質の冗談と考えてよい」と"余裕""遊び""相手を思う"など、現実的な核心部分に心を突かれる。本書の結びには「政治の仕事は危機の克服」が取り上げられており、「人材が飢渇したから、国が衰退するのではない。人材は常におり、どこにもいる。ただ、停滞期に入ると、その人材を駆使するメカニズムが機能しなくなってくる。要するに社会全体がサビついてしまうんですね」と、停滞期の今だからこそ、徹底的に「持てる力や人材の活用を」という。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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