老いてこそユーモア.jpg笑いととても深い関わりを持つユーモア。"ユーモア→うまい言葉→笑い"という構造。「ユーモアはほとんどの場合、知的な言葉によって表出されるのが本筋だ。だから――楽しい言葉を探そう――これがユーモア作法であり、若い人より年齢を重ねた立場のほうが扱いやすく、向いている」「ほとんどすべての人に対して、できれば明るく生きたい人に対して、『ユーモアは、いいですよ』と私は言いたい」「表情をともなう笑いに比べて人間の心の微妙さと関わるユーモアはもっと多様で、もっと広い。教養や人生経験を反映して、それゆえに若者より年配者にこそつきづきしい。行動的であるより、ためらいに臨みながら言葉で少しく参加しよう、という現れかたなのだ」――。

「日本人とユーモア(日本人にはユーモアがないと言われるが。狂言、川柳、狂歌、落語。ショートショートの「最期のメッセージ」。清少納言等の"をかし(趣きが深いこと)"。"しゃれ")」「西洋人とユーモア(イソップ物語はユーモア。イエスのユーモア。サービス満点のシェイクスピア。風刺のきいたスウィフトの真っ黒なユーモア。ユーモアと個人主義)」――。それぞれ選りすぐりで面白い。

「同級会は基本的に今の自分の生活にとりあえず満足している人が集まってくる」「"まあ、わるくはない"人生を、その人なりに生きて、その通りわるくない、のである。――人生こんなもの――どう生きたって、そこそこに幸福な最後を迎えられれば、もって銘すべし。あえて言えば、これがユーモア人生なのだ、と私は思う」「ユーモアはけっして過大な欲を抱かない。無理をせず、ほどほどのところに満足を見い出し、少し笑い、少し悲しみ、ときに逃避し、自嘲し、心理的に自分を守りながら大きな陥穽や絶望に陥ることなく、困難の少ない人生をほどよく生きるこつ、それを知っている心なのである」「偕老同穴。老後は夫婦仲よく暮らすのが一番、なによりすばらしいのである。人生の幸福、ここにあり、だろう」「このごろの世の中、人を批判し、文句をつけることにはとても熱心だが、褒めるほうはいたってけちである。もう少し褒めてもよいではないか」――。ユーモア、教養、諦観、楽しい言葉の探訪、ささやかな余裕、日常の幸福が素直に伝わってくる。


ベトナム・アジア新論.jpg今迄、アジア各国を訪れ、日本との関係強化の仕事もしてきたが、本書を読んで各国の民族性、歴史的背景を掘り下げていなかったことに気付く。激動するアジア各国であるだけに、そこを理解しないと現実の動向を見誤ることになる。「今のベトナムとアジアを考える」「ベトナムとアジアの過去と未来」の2部に収められたブログ、解説、考察はきわめて刺激的で面白い。

「ベトナムと中国との間にある何万という拉致・人身売買事件」「韓国で相次ぐベトナム人妻の殺害事件(韓国人男性の国際結婚率の高まり)」「怒れるツングース(司馬遼太郎)と像」「1019年の刀伊の入寇と1300人拉致」「不法滞在の日中韓トライアングル」「台湾との間で拡大する留学生交流」「英誌が報じる中国"シャープパワー"脅威論」「外交における合従策と連衡策」「ベトナムモデルの南北統一を夢見る金正恩」「福建人ネットワーク」「インドの悲しい結婚事情」「中国の岳飛待望論?」「朝鮮王朝史に見る党派抗争・権謀術数」「高級海浜リゾート地に大変貌しつつあるベトナム中部のダナン」等の第一部・・・・・・。

「ベトナム戦争時、一枚岩ではなかった北ベトナム労働党」「ベトナム戦争とは何であったのか」「チョン書記長の権力強化とベトナムの中国傾斜(ズン首相の解任・引退)」「インドの超大国化を阻む三つの"闇"」「明治維新の国際的な衝撃」「米欧から見た岩倉使節団」・・・・・・。

ベトナムを中心とした激動するアジア理解の解説本。


日中の失敗の本質.jpg世界は急速に変わり続けている。世界における中国の存在感、重要性は今後さらに強くなっていく。一方、国際社会は欧州の政治的混迷やトランプ大統領登場など、不確実性を増している。世界が新しい時代に突入したことを自覚し、新しい日中大国関係の構築が迫られている。副題に「新時代の中国との付き合い方」とあるように、「中国の大国意識と日本が培ってきた自信が不協和音を奏で、それぞれの発言や行動が相手の国民感情を刺激し合う状態」を脱し、新しいステージに入ったことを自覚しての日中関係をどう構想するか――歴史と時代をうねりのなかで把え、包括的かつ鋭角的な指摘が行われている。

「われわれは歴史から何を学ぶのか」――。戦前の日本は、アメリカの保有する国力と指導力、アメリカ社会のもつ強さを見誤り、最もやってはいけない対米戦争に突入した。そして戦前の日本は、中国の民族主義の力を過小評価し、強く叩けば屈服すると誤った。日本が大局的視点に立って中国問題に当たれば、日米戦争は回避できた。加えて、戦前の日本は、第1次世界大戦に対する欧米の痛切な反省と平和への希求、新たな理念や価値観を共有することに失敗した。

「われわれは今どういう世界に住んでいるのか」――。これまでのリベラル・デモクラシー、国際経済秩序のアメリカの時代を経て、"トランプ外交"は超大国疲れであり、"アメリカの時代"の終わりの始まりなのか。今、米中貿易戦争ではなく、米中の対抗する緊張が始まった。「新しい時代においても戦後国際秩序の基本は残る」という。「習近平の"中華民族の偉大な復興""中国の夢""トラとハエ退治"」「中国外交の課題は、経済の合理性が要求する国際協調外交と、ナショナリズムが要求する国威発揚と対外強硬姿勢の間のせめぎ合いを止揚すること」「訪日中国人が日中関係を変える?」「日中関係の最も重要な変化は、日中間に軍事安全保障の新たな柱が立ったこと」「現行の国際システムから最大の利益を得てきたのが日本であり、中国だ。この国際秩序ないし、システムを維持し、発展させることが日中の共通の課題」「国民感情は簡単に移ろう。さらなる交流と相互理解が必要。米中の衝突を回避させるために動く力をもつのは日本しかない」・・・・・・。

そして「わが国が目指すべきは世界の現行秩序の根本を堅持し、世界の平和と持続可能な発展を確保するものでなくてはならない。日本外交は積極的に米中関係に関与し、・・・・・・能動的外交を展開すべきだ」「幅広い分野での協力関係、平和で安定した協力関係を構築せよ」という。


続横道世之介.jpg「去年の四月から、だらだらと始まったこの一年間の物語も、桜の開花を待たずに、そのままだらだらと終わりを迎えようとしている」――。舞台は池袋や小岩。パチンコ店、工場、川の土手。一応、大学は卒業したものの、一年留年したせいでバブル最後の売り手市場にも乗り遅れ、バイトとパチンコでどうにか食い繋ぎながらの横道世之介の一年。桜子や亮太、隼人さんや親父さん、光司くん、浜ちゃん、コモロン・・・・・・。順風満帆ではないが、何か幸せ。ゆったりした会話や時間が流れていく。"モーレツ"の昭和と違って、たどり着いた平成の群像。

「ただただ善良」「頼りないが、愛され、悔しい思いをした時になぜか思い出される男」の世之介。「世之介、じゃあさ、おまえ、今日のことをよく覚えておけよ」と父親。「ここがおまえの人生の一番底だ。あとはここから浮かび上がるだけ」・・・・・・。それから27年後の東京オリンピック・パラリンピックで、日吉亮太は活躍するのだが、それは後日談。

「悪人」や「怒り」の吉田修一さんは、「横道世之介」の吉田さんでもあるのは、十界互具の人間を特徴的に描いているからだろう。


なぜ日本の会社は生産性が低いのか?  熊野英生著.jpgすでに日本企業の生産性は先進国の最下位レベルまで落ち込んでしまっている。日本はOECD諸国の1人当たり国民所得は19位(2016年)、就業者の1時間当たりの名目労働生産性では20位。「生産性が落ちると国が貧しくなる」「医療・福祉・介護に低生産性が目立つ」「日本の弱点は"サービス業"(労働生産性が低い労働集約型サービスに他のカテゴリーから就業者が移動してくる)」「多くの日本人は、製造業の潜在力を世界最高峰だと信じているが、"ダントツ"がないのが日本の弱み(日本にはニッチ分野において突出した非価格競争力をもつ企業が少ない)」「チャンスを活かすために制約の全廃を」と、まず指摘する。

日本企業は構造変化への対応策を間違えた。代表例は「成果主義」――。企業が「個人単位での業績」を追求する悪弊が広がり、「ワンオペ」が仕事のスタイルとなった。パソコンの普及が拍車をかけ、余裕が失われ、社員教育の機会も失われてきた。成果主義は中長期的な利益追求には向かない。個人の仕事を工夫する以上に大事なのは、「組織やチームの成果、協業の効果だ」という。

日本は経費削減での成功体験があるが、経費削減で生産性向上を求めるのは愚だ。成果主義とセットで労働時間規制を緩和させてしまうと、長時間労働の弊害が発生する。「チームワークと協業のメリット、働く人の目線の高さ、職業への忠誠心と利他的行動」の3つが生産性上昇のために必要だ。大切なのは「働く意欲の押し上げ」――現場を知らない幹部が社内に多くなるとすぐ削減してくる。とくに交際費、会議費、交通費、広告宣伝費、教育費、研修費、研究開発費・・・・・・。このようにKで始まる項目を削ると、知識や技術が細り、会社の「無形資産」が壊れていく。最も大切なのは、「新しいことに挑戦する勇気である」と結ぶ。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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