「快楽とは、ヒトの脳が用意した"頑張っている自分へのご褒美"」だ。しかし、これが強力だけに、薬物やアルコール、ギャンブル、買い物などで、そのときに分泌される快楽物質への依存症に陥る危険がある。その源になっている化学物質(脳内麻薬)の働きについて解説している。副題は「人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体」だ。
「ドーパミンの過剰・不足になると」「依存症は決して心の弱さといったものが原因ではなく、脳内の物質の異常から来る病気」「苦痛を和らげる快楽物質・オピオイド」「ランナーズ・ハイ」「依存症には(1)アルコール・薬物など物質への依存(2)ギャンブル・買い物・仕事などプロセスへの依存(3)恋愛・カルト宗教・DVなど人間関係への依存の3つがある」「人間関係への依存と社会的報酬の関わり」「自分が生きている意味を認識せずにはいられない、特異な生物・ヒト」「笑顔で表情筋が動き、脳の報酬系が刺激される」「幸福度の高い人ほど死亡リスクが低い」「人間は絶えず"自己実現"に向かって成長する――マズローの欲求5段階説」・・・・・・。人間の脳の仕組みは奥深い。
「ある日本兵の戦争と戦後」と副題にある。1925年(大正14年)生まれの小熊謙二さんの人生を、子息の小熊英二さんが聞き取り、まとめたもの。苦難の歴史は私の父母にもかぶるものがあり、思い起こしつつ読んだ。戦前、戦中、戦後の日本人の庶民の生活と心象風景。若い最も楽しかったはずの若き時代が、戦争に奪われ、苦労ばかりだった世代の思い。時代と権力を持つ側に翻弄された人生。そして戦後社会の激変。庶民の生活の民俗学ともなっている。
1930年代から「生活物質が急になくなっていく」「兄弟、親族が次々と病い等で亡くなっていく」「空襲、入営通知、敗戦」「シベリア抑留とは露ほども思わず日本に帰ると思っていた」「最初の冬は想像を絶する極寒と厳しい生活環境のなか、仲間が次々と死んでいった」「民主運動。反動分子の烙印を押されたら帰国できなくなるとの恐怖」「帰国後、まともな仕事がなく、次々と職を替える、生きるに必死の状況」「絶望的な結核療養所の約5年」、そして「高度成長とともに変わる生活」「戦後補償裁判」・・・・・・。父母と私の戦後生活がかぶる。
平岩弓枝さんの「御宿かわせみ」シリーズは、昭和48年に始まり、全34巻。そして「新・御宿かわせみ」となっても続き、本書はその最新作。
大川端の旅宿「かわせみ」は江戸から始まるが、東京となった明治の初めのこと。春の嵐で屋根瓦を吹き飛ばされ、改築のために休業を余儀なくされるが、女主人のるいは千絵に誘われて、十数人の一行で「お伊勢まいり」に行く。その道中でさまざまな事件が起きる。嶋屋長右衛門は行方知れず、その女房のお仙は不慮の死、大坂屋平八は病のために脱落、小泉屋の火事・・・・・・。そんななか、この道中は「明らかに誰かが仕掛けたもの」で、千絵が非業の死をとげた夫・畝源三郎の敵討ちに狙いがあったことがわかる。そして、雷鳴が轟くなか・・・・・・。
時代と庶民の日常。喜び、悲しみ、怒り、生老病死が、そっと心情まで浮かび上がるように描かれる。「『変わりましたよね、このあたり・・・・・・御一新の前とは・・・・・・』お千絵が町並みを眺め、るいは大川端の方角の空を仰いだ。歳月が移り、世の中が変った。けれども、その中で生き抜いて来た人々の想い出は想い出す人がある限り消えはしない。人は一生をかけて想い出を紡いで行くものかと胸の内で小さな吐息を洩らした。空に雲があった・・・・・・」――。いい。