51H7Y3OcVbL__SX310_BO1,204,203,200_.jpg2011年4月から今年1月までの約10年、毎月1回朝日新聞連載のコラム「時事小言」をまとめたもの。「何が終わり、何が変わったか」が副題だが、国際政治は激変した。中国の台頭、難民・移民による欧米社会の激変とポピュリズム、米国でのトランプ誕生、英国のEU離脱、シリアやイランなど中東の混迷、北朝鮮の核開発、そのなかでの安倍長期政権と外交・・・・・・。新冷戦の兆しに包まれた不安定化する世界の激変を、毎月1回ウォッチし、語る。そして事象の激変を語るのではなく、その背後にある世界の変容を構造的に落ち着いて分析する。

「民主主義が後退している。各国は、選挙や議会の民主主義の上にリーダーを選んではいる。しかし、専制化し、独裁化している」「民主主義は後退し、権威主義体制の安定というのが国際政治の動向だ。民主主義は法の支配と国際関係の安定の基礎だ。権威主義が優位となった社会は、権力闘争と力の均衡が支配する古風な政治の復活だ」「ヨーロッパは、アメリカにおけるトランプ政権と競い合うように、自国の利益のためには地域協力を後回しにする体制への転換を進めている。分断された世界の先頭に立って、ヨーロッパは分解する世界の先頭に立とうとしている」「韓国で語られる歴史が『正しい』わけではない。しかし植民地支配のもとに置かれた朝鮮半島の社会、そして戦時に動員された労働者や女性が強いられた経験について、日本でどこまで知られているのか。慰安婦は売春婦だなどと切って捨てる人が日本国民の多数だとは私は信じない」「SDGsは机上の空論ではない。発展途上国への援助ではなく、先進工業国を含む世界全体の目標として掲げられ、国境を越えた協力と結束なしにはSDGsの実現は不可能だとの認識が共有されている」「核廃絶すべき、一方で抑止力として核は必要という議論は、核兵器が実践で使用される可能性が高まっている事実を見ていない。核廃絶の理念を掲げるだけでなく、緊急の政策課題として核軍縮を実現しなければ現在の平和が失われる。その緊張感のなかで核兵器の削減に努めなければならない」「一帯一路政策などから連想する中国は、軍事・経済の両面で覇権を求め、国際政治の安定を阻む新興大国の姿である。だが中国最大の敵は中国自身であり、共産党による抑圧的支配にほかならない」「米国の政策は、覇権国家としての負担を削減するためには貿易体制や同盟が動揺してもかまわないかのようだ。米主導の下につくった国際制度を見直し、米の利益に沿うように各国の譲歩を求め、得られないなら制度から撤退するという変化となっている」「個人情報の保護と安全保障の要請との間のバランスをいかに取るか」「今の世界では戦争が生まれる可能性は高い。紛争のエスカレートを食い止める可能な手段を考えることだ」「今問われているのは抑止の正当性ではなく抑止の限界である。抑止戦略に頼っても、軍事介入に頼っても、平和と安定を期待できない。そのような世界に私たちは生きている」「自国の利益ばかり優先される世界で、国境を横断した価値や倫理を実現することは可能か」・・・・・・。

国際社会、国際政治の抱える諸問題、しかも構造変化激しいなかでの生々しい諸問題――"綺麗な答え"が見つからないなか、現実を直視し、深層からの筋の通った主張がされている。


戦没者遺骨鑑定の専門センター設置へ――。21日、厚労省はこれまで問題となっていた日本人と外国人の遺骨取り違え問題を受け、①現地での焼骨前のDNA鑑定を行う②戦没者遺骨鑑定の専門センターを設置する③遺骨鑑定の外部専門家の登用や、新技術の研究、職員研修を強化する――などを、決定しました。

これまで難しい問題として本格的体制ができなかっただけに、画期的な体制で取り組むことになります。これまで、公明党の高木美智代衆院議員、秋野公造参院議員が真剣に取り組んできたもので、共に働いた私としても大変うれしい進展です。


日本経済学新論  中野剛志著.jpg「渋沢栄一から下村治まで」が副題。「日本経済学」とも呼ぶべき近代日本の経済・思想を貫く精神とは何か。それを、渋沢栄一、高橋是清、岸信介、下村治の4人を抽出し、その柱がプラグマティズムと(経済)ナショナリズムであることを明らかにする。明治から昭和の終わりまでの日本。激動のなか実際に舵取りをした4人は、現場実践の実感覚と柔軟性を手放すことがなかった。そして、民力、国力、創造力や国民の連帯意識を重視した。当然、積極財政や保護主義を主張し、健全財政や自由貿易のドグマから距離を置く経済ナショナリズムに立った。経済理論や貨幣論が揺れ動くなかで、4人の経済思想が共通することが浮き彫りにされる。その骨太の道を提示する本書の圧倒的な力業、鮮やかさに驚嘆する。

とくに渋沢栄一の「論語と算盤」。なぜ、論語と算盤か、どういう論語なのか。水戸学のプラグマティズム、朱子学批判。理論は実践のなかにある。萩生徂徠ではなく、伊藤仁斎・会沢正志斎・渋沢栄一と貫かれる「中庸」「常識」の渋沢の論語主義が示される。その理念は、市場の「見えざる手」ではなく、「国家のため」「社会のため」といったナショナリズムや公共精神をもつ渋沢たちの「見える手」によって開拓され、近代日本の資本主義が形成される。渋沢も高橋是清も近代化と戦争のなかで、格闘する。緊縮財政か積極財政か。金本位制等々をめぐる貨幣をめぐる通貨論争は、世界を背景にして揺れ動く。デフレとインフレ、この時代に渋沢をしてもなお超えられなかった商品貨幣論のドグマを超えて次代の扉に手をかけた先駆者・金井延の存在も紹介される。

経済ナショナリスト・高橋是清――。高橋は事象の根本原因を常に問い質す姿勢をとり、経済の「根本」はナショナリズムによって動かされる産業組織であり、それこそが「国力」なのだとした。経済ナショナリズム、国民の生産力を引上げるための産業政策を重視した。井上準之助の緊縮財政の失敗と野心、高橋の積極財政の功は顕著だが、しかし軍国主義化の勢いは止められなかった。この戦時統制経済の責めを受けるのが岸信介だが、「岸が官僚になって以来、一貫して軍国主義者あるいは戦時統制経済論者であったとはいえないのではないか」「岸にとって『統制経済』とは自由主義経済と計画経済の中間形態」と中野さんはいう。そして後の岸政権は、積極財政、インフラ整備を図り、「所得倍増」の池田政権へとつなぐ「協調的経営者資本主義」を進めたのだ。その「所得倍増計画」を理論的に支えたのが、下村治――。渋沢、高橋、岸の経済ナショナリズムの思想を受け継いだ「下村理論」「成長理論」だ。成長の主軸は「国民自身であり、政府ではない」とし、「ケインズの理論に供給側の理論を接続した成長理論」「政府は安易な景気刺激策・需要刺激策ではなく、経済をあるべき姿に向けて誘導するのが役割」だという姿勢を堅持した。さらに低成長時代を経て、「下村は"追い付き追い越せ"型の経済成長が終わったからこそ、民間主導型から政府主導型の経済システムへと転換しなければならないと、新自由主義的な構造改革論者とは正反対の主張を展開した」と指摘する。政府が財政支出を拡大して国内需要の増加を誘発させなくてはならない、ということだ。

最後にこの平成以降、「渋沢が説いた合本主義を時代の遺物として打ち棄て」「高橋の否定した健全財政のドグマに執着し」「岸が嫌悪した弱肉強食を目指して、規制緩和、自由化、民営化を推し進め、日本型の協調的経営者資本主義を葬り去り」「下村が遺した『国民経済を忘れるな』という戒めを忘れ」ていい訳がないと、痛烈に言う。


困窮する大学生に10万円(最大20万円)の給付が決定――。19日、新型コロナウイルス感染拡大の影響で経済的に困窮する大学生・専門学校生や大学院生、住民票のある留学生、日本語学校などの学生らを対象に1人10万円または20万円(住民税非課税世帯)を給付する「学生支援緊急給付金」の創設が閣議決定されました。

これは公明党が萩生田文科相に新型コロナ感染拡大で、仕送りやアルバイトが無くなり経済的に困窮する学生へ「給付金の創設」を行うよう5月8日の緊急提言をはじめ、3度の申し入れを行い、強く学生支援を求めてきたもの。萩生田文科相からも「早急に対応したい」との返答を得ていました。

支給対象の要件は ①家庭から自立してアルバイト収入で学業を賄っている(原則として自宅外学生) ②アルバイト収入が50%以上減少 ③住民税非課税世帯で高等教育無償化を受給している、もしくは無利子の貸与型奨学金を限度額まで利用しているなど。対象となるのは約43万人。所要額は約531億円。スピードを重視し、今年度の第1次補正予算の予備費を活用します。

大学などを通じて日本学生支援機構から給付を受ける仕組みです。一日でも早く学生の手元に届くように全力を挙げます。


生き抜くための数学入門  新井紀子著.jpg「数学とは何だろう」「微分・積分何になる」「足し算・掛け算・分数がわかれば人生はやっていける」とは、ほとんどの人の思いだろう。しかし、物事を定義づけ、論理的思考をする。思考の幅や自由度を身につける。感情に溺れず、正確に考えることが人生でいかに大切か。新井先生は「日本人は、どうも『とは』と『なぜ』の力を、学校でも社会でもちゃんと鍛えていない」という。そして「他の国の人にも」「宇宙人にも」、しっかりした定義と論理の共通言語で語り合えるように、本書では「かけ算を宇宙人に教えよう」「数学的な構えをチェック」「数直線は変な線」「四角形とは」「ゲームを定義する」「累乗のこわさとおもしろさ」「いろいろなグラフ」「計算できない関数」「三角関数」などの講義を行い、最後はあの小川洋子の「博士の愛した数式(オイラーの等式e + 1 = 0やルート√)」などを語る。あらゆる概念を論理的に考え続け、皆で共有する。「なぜ」と問いかけ、その結論を出す。

無限、有限、確率、無限小数、循環小数、数直線、実数、自然数(正の整数)、無理数(分数で表せない)と有理数、円や四角形の定義付け、累乗(ダニやコロナ)、微積分、指数法則、テイラー展開、超越数・・・・・・。

「パワーアップした数学はこれから新たなものを数学に飲み込み、発展するでしょう。そういう数学で育った若い数学者たちは『複雑さ』への耐性を身につけて、前の世紀では想像できなかったような概念への直感を身につけていくにちがいない。それに参加するか、それとも、しないのか、現代の数学というのは、そういうバトルフィールドなんだろうと思う」という。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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