「戦国の怪物から幕末の闇まで」が副題。「とかく、歴史には闇が多い。歴史には裏がある」と言う。歴史は表舞台の歴史であり、勝者の歴史である。民衆の喜怒哀楽の歴史や災害との関係などは、あまり表には出ない。磯田さんは、古文書を徹底して求め、表には出ていない意外な事実を探りだし、解読する。面白い。
今回の直木賞「しろがねの葉」では、石見銀山の厳しい現場の実態が胸が苦しくなるほど描かれるが、「日本最古のマスクは1855年頃、石見銀山の鉱山労働者の健康対策に宮太柱が開発した「福面』といわれる」と、本書の「疫病史に照らせば中盤か」「最古のマスク広告か」で書かれている。「江戸マスク開発者ニ人の末路」も面白い。災害について、磯田さんは、いくつもの著作で描いているが、「京都の震災復興、公家の苦闘」「西日本で地震連動の歴史(高槻の1596年の慶長伏見地震)」や、感染症についても、「身代潰した給付なき隔離」「感染症から藩主を守る(登城も出勤も自粛させたのは藩主を守るため)」など興味深い話が出てくる。「歴史は繰り返さないが、よく韻をふむ」という。
「光秀登場の黒幕(細川藤孝)」「比類なき戦国美少年・名古屋山三郎と淀殿」「家康の築城思想(二条城が小さいのは何故)」「三代・徳川家光の『女装』(家光に英才教育を施した三人)」「吉宗が将軍になる直前の尾張藩主の連続死」・・・・・・。「幻の忍術書・間林精要」「赤穂浪士が吉良の首を泉岳寺に運んだ後の「吉良の首切断式」「カブトムシの日本史」「殿様の警護マニュアル(刀を抜かないように刀のグリップにかぶせた柄袋。桜田門外の変で襲撃された時、お供の武士たちはこの柄袋のせいで刀を抜くのが遅れたという説。駕籠の中の井伊直弼はいきなり銃弾で腰を打ち抜かれた)」「鼠小僧は義賊にあらず(もっぱら弱い女子の部屋を覗き、彼女らの金をせしめていた)」「西郷隆盛は闇も抱えた男だった(西郷はもちのような男と言われ、すぐ気持ちが溶け合う男だったが、謀略を始めると暗殺、口封じ、欺瞞、何でもやった恐ろしく闇を抱えた男でもあった)」「コメ日本の圏外が育んだ発想(奄美群島、下北半島には牧畜社会があった)」「松平容保など『高須四兄弟』を生んだ高須藩の謎」「孝明天皇の病床記録の漏洩」「もみじ饅頭と伊藤博文」・・・・・・。
「織田信長の遺体の行方」などについても調べ上げて解説している。