首相辞任直後の2020年10月から、1日2時間のインタビューが始まり、21年10月まで18回、計36時間の肉声を収録したもの。今もふっと安倍元総理が出てくる。表紙にあるあの笑顔が・・・・・・。優しい気配りの人、リアリストの政治家、話が行き交うとグッと身を乗り出してくる姿、外国首脳との会談でも戦略的に主張し当意即妙の鮮やかな切り返しをする姿・・・・・・。公明党のことも大変大事に思ってくれ、「全世代型社会保障」「教育」「中小企業支援」「防災・減災」「観光」など推進できた事はあまりに多い。私が安倍元総理に感じてきたのは、「国を背負う」という気概、戦略的思考だ。
本書で語られることは、1993年当選の同期、2006年第一次安倍政権では私は党代表、2012年第二次安倍政権では国土交通大臣でもあり、くっきりと目に浮かぶ。第一次安倍政権での教育基本法や国民投票法、参院選の敗北・・・・・・。地獄からはい上がった第二次安倍政権――日本再建、経済再生、デフレ脱却、その中での2度にわたる消費税上げ、平和安全法制、70年談話、憲法改正問題、3,000万人を超えたインバウンド観光、そして勝利し続けた国政選挙――。最後に襲いかかったコロナ。その緊迫する毎日の中で安倍元総理は何を考えたか。本書では、「財務省など役所への不信」などを始め、かなり率直に語っている。公にはできない戦略的部分もあろうが、紙面的制約の中でも安倍元総理らしく率直だ。
特に、本書のかなりの部分を占める「地球儀を俯瞰する外交」における世界の指導者とのやりとりは、安倍総理ならではの面目躍如、八面六臂だ。オバマ、トランプ、メルケル、習近平、プーチン、豪州のアボット、フィリピンのドゥテルテなどとの真剣勝負のやりとりは他の誰にもできないことだった。それらが肉声で語られている。面白いし貴重だ。そこには「自由で開かれたアジア太平洋」構想などの戦略性と意志が常にあった。その都度、面白いエピソードを聞かせていただいたが、「1時間にわたるトランプとの電話会談の中身」「大統領は反対党によって倒され、首相は与党から倒される」など本書にはそれが出ている。
1年にわたってよくインタビューをしておいてくれたとの思いを深くする。「回顧録」というにはまだあまりに生々しく、こみ上げてくるものがありすぎる。