hanano.jpg宮城谷昌光氏が、自らの著作の中で「最も気に入っている」と言っている作品。末尾で解説をしている藤原正彦氏が「本書は小品ながら、とりわけ完成度が高く、宮城谷文学の魅力が存分に溢れる、後世に残る名作なのである」「氏の真骨頂たる繊細な美的感受性が横溢している。詩のような、淡い色調の水彩画のような小説である」「氏の『風』はやはり視覚的イメージであり、優しい響きの中に、人間の意思を超えた運命の力とか生の儚さがにじんでいる」と述べている。

漢王朝の時代の荒れはてた河北の観津の地。貧しい名家・竇家に、美しい娘・猗房、その兄・建、弟の広国がいた。ある日、郷夫老が訪ねてきて「このたび、皇室におかれては、全国から名家の子女を集め、皇宮において養成なさるとのこと」と、猗房を推すことになったと言う。そして猗房は王室に入るという驚くべきことになる。宮廷では呂太后が過酷に君臨していた。運命は、幾多の困難をものともせず、大いなる変転の後、猗房を皇后にまで引き上げる。一方、広国は、猗房が長安へと発ったその日に、人さらいにさらわれてしまっていた。これも運命か、ニ人は感動的な出会いをするのだった。

人と人との出会い、縁の連鎖、不思議な人間の運、そして運命。「猗房は老子が好きであった」「老子は弱いものの側に立った哲学である。弱い者とは庶民であり農民である」「『上善は水の如し』と老子はいう。最上の美徳とは水のようなもので、水は万物をうるおしながら万物と争うことをしない。しかも水は人の嫌がる低地へ流れこむ。人のためになり、人と争わず、人にへりくだる。人格をみがくということは、水をみならうことである。猗房はくりかえし自分にいいきかせた」・・・・・・。老子の思想が天命へと流れていく感動的な作品。しかも描写は、簡にして明、そして鮮、とぎ澄まされて美しく、たおやか。風とともに風景が浮かび、通い合う心が切ないほど迫る。広国と藺の出会いと再会もいい。「広国は立った。臣下も立ち、目を刺すような陽差しのなかに吸いこまれていった。馬車の走り出す音がきこえた。女は顔を上げた。藺であった」「嘘のような、夢のようなことが、現実であった。その人が自分を探しつづけていてくれたことが、どういうことであるのか、藺にはわかりすぎるほどわかった。自分の胸を自分の手でなだめなければ、痛みのとまらないようなせつなさを覚えたことは、奇妙なことにいまが生まれてはじめてあった」・・・・・・。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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