「室鳩巣の手紙を読む」が副題。江戸時代、側近はどういう働きをしたのか。将軍と側近と老中の関係は、どうだったのか。5代将軍綱吉に仕えた柳沢吉保、9代将軍家重の大岡忠光、10代将軍家治の田沼意次などは名高いが、本書で取り上げた6代将軍家宣や7代将軍家継に仕えた間部詮房、ブレーンの新井白石。そして第8代将軍吉の時代まで活躍した儒学者・室鳩巣の側近ぶりと活躍、苦衷を描く。室鳩巣は正徳3年、新井白石の推挙で徳川幕府の儒学者となり、その門人で加賀藩に仕える青地兼山・ 麗澤兄弟に宛てた手紙を主とする書簡集「兼山秘策」を残している。
心が広く情深い賢明な将軍家宣、4歳で将軍となる幼少将軍家継、フットワークが軽く質実剛健、下の者にも細やかな配慮をする行動的な吉宗――全く違う3人の将軍だけに、側近や老中の役割・立場は大きく変化する。白石や鳩巣による幕閣の人物評も毒舌で、老中のバカさ加減に憤ったりもする。間部詮房・新井白石vs土屋政直・林信篤という幼少将軍就任を機に、政治の主導権を取り戻そうという画策。幼少将軍では間部・白石の政策上の権威付けには不十分であり余計に側近に対する風当たりが強くなっていく。
吉宗は、自らの側近はあくまで側衆の一部としての立場に置き、すべての幕臣から庶民に至るまでをブレーンとし、あくまでも手綱は吉宗が握った。吉宗は、名実ともに為政者であり、「吉宗政治」だったという。「上様の御為といっても老中や若年寄など、幕府の伝統的な官職と、新規に取り立てられる側近との間には超えてはならない役儀がある」と吉宗にも仕えた久世重之は言っている。
災害、火災、財政難、朝鮮通信使の扱い等、難題山積の江戸時代中期――その中での人間と政治を生々しくも泥臭く語る鳩巣を、描き出している。人間模様がくっきりと浮かぶ。