kuroi.jpg原田マハの6つの短編集。20072008年が4編、2022~ 2023年が2編。著者が「ようやく封印を解いて世に出す"ノワール"小説集」と言い、帯には「アートの暗部を炙り出す禁断の小説集」「禁じられた遊び、爛れたエロス、閃く殺意」とある。「これまでの原田マハさんとは違う」と言う声があるようだが、芸術において人間の始原的な愛や性欲や夢幻の世界が狂気となって噴出するのは至極当然のことであろう。「リボルバー」「風神雷神」「たゆたえども沈まず」に書かれたゴッホやゴーギャン、日本の名だたる絵師を見れば、生々しい人間の狂気を見ざるを得ない。

「深海魚」――高校生の瀬川真央は友達も彼氏もいない。学校ではひどいいじめに遭っていた。そんな真央がいつも逃げ込めるのは押し入れで「海の底」。そこで見る夢はたまらなく淫靡で、流花との禁じられた遊びが

「楽園の破片」――ボストン美術館の講演会でスピーチをする予定の高木響子は、乗った急行列車が遅れて焦る。もうひとりのスピーカーのレイとは7年間の不倫関係があった。「ゴーギャンは、タヒチに永住する気はなかった。楽園だったからだ。対極にある現実があってこそ、楽園は楽園たりうる。現実と楽園を行き来する危ういボートに、ゴーギャンはカンヴァスと筆とイーゼルとを持ち込んだ。彼は楽園に安住できなかったのだ」「私たちは楽園に似たもの、あるいはその破片を生涯大切にして、憧れ続ける運命なのだ」

「指」――東京にある私大の日本美術史博士課程2年の私は、家庭を持つ彼の研究室で助手をしている。5月のある週末に室生寺に来て、釈迦如来坐像の端麗で清らかな指を共に見る。「だから中指で、触って欲しいの」

「キアーラ」――神戸の大学で教鞭を執る修復家の亜季。19979月のイタリアの大地震で、アッシジの聖人フランチェスコの遺体が眠る聖フランチェスコ大聖堂の天井のフレスコ画が崩れ落ちた。亜季は呼ばれて修復作業を行うことになるが

「オフィーリア」――芥川龍之介の「地獄変」をもとにして、絵の中に閉じ込められたオフィーリアから見た世界。日本の画家の家に運ばれた「オフィーリア」は成金男のおぞましい姿や浮気現場を見る。「静かに沈んでゆく。悲しく、残酷な、これ以上ないほど美しい瀕死の瞬間」「それはすなわち、絵にすること。絵の中に閉じ込め、永遠を生きさせること」

「向日葵奇譚」――超売れっ子で演技に定評がある役者・山埜祥哉の舞台の脚本を手がける塚本。狂気と悲劇の画家ゴッホを主人公に描こうとする。そこに1枚の奇妙な写真に出会う。後ろ姿のゴッホの写真を見ると、狂気や天才ではないゴッホが見えてきて、塚本は脚本を一晩で書き直す。

いつもの原田マハの世界と違っている――そうは全く思えない。 

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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