表題の小説は無い。「江戸怪盗記」をはじめとして12の短編集。
「正月四日の客」と「白浪看板」はテレビで観た。「鬼平」の関連として映像化され、松平健と中村梅雀がそれぞれ演じ印象的だった。「白浪看板」は「夜兎の角右衛門」が表題となっており、右腕のない女乞食にうなぎを食べさせる角右衛門。「乞食のかけている看板は、拾いものを返すってことなんですよ」「長谷川平蔵は難しい顔つきになり、『その女乞食の看板と、お前の看板とは、だいぶんに違うのだ。お前の看板の中身は、みんな盗人の見栄だ、虚栄というやつよ』」・・・・・・。印象的だ。
女がとても良い。「市松小――僧始末」「喧嘩あんま」「ねずみの糞」は、おまゆという女ながら背たけは6尺近く体重は23貫、「豊かな白い肌と肉が造型する顔貌は整っていて愛らしい」女性と、スリの優男・市松小僧又吉の物語。2人は夫婦になる。おまゆが亭主の右手の指五本を切り落とす。又吉があんまの豊ノ市を助ける。又吉が浮気をして、その相手おふくがいい。「これだから、女という生きものは強いのだよ」・・・・・・。
「熊五郎の顔」――身体を許した相手が雲霧仁左衛門の乾分の州走の熊五郎ではないか、なんと亭主の仇ではないかとうろたえる姿は目に浮かぶ。「四度目の女房」――大工小僧と異名をとる伊之松と四度目の女房おまさの話だが滑稽さを超えている。「鬼坊主の女」――鬼坊主清吉が捕縛され、辞世の句を託されたお栄のしたたかさ・・・・・・。
その他、「金太郎蕎麦」「おしろい猫」「さざ浪伝兵衛」がある。いずれも面白い池波正太郎の描く江戸の町。