gengono.jpg「ことばはどう生まれ、進化したか」が副題。「オノマトペの性質や役割を明らかにしたいという筆者たちの探求は、『言語習得』『言語進化』に変わり、いつしか『言語の本質』という、エベレストの山頂を目指すような旅になっていった」――。今井さんは、発達心理学の視点から、秋田さんは言語学の視点から、協力してオノマトペを問うことから始まり、言語の習得と起源・進化の道のりを探求、言語の本質に迫る。人間だけが持つ言語。そこに根源的かつ実証的に迫っていく挑戦的な姿勢はきわめて刺激的で納得する著作。

すべての出発点はオノマトペ。オノマトペは、物事の一部分を「アイコン的」に移し取る。残りの部分を換喩的な連想で補う点が絵や絵文字などとは根本的に異なる。「角張っている阻害音、丸っこい共鳴音」「オノマトペは聴覚を軸としながらも、ジェスチャーという視覚的媒体と、マルチモーダルなコミュニケーション手段」「オノマトペは子供じみた音真似であって言語ではない、と言う学者もいるが、あくまで言語である」など、言語の十大原則等に基づいて分析する。極めて興味深い。「オノマトペは、言語が身体から発しながら身体を離れた抽象的な記号の体系へと進化・成長するつなぎの役割を果たすのではないか」と言う。オノマトペは、言語学習の足場なのだ。

それでは、言語はどのようにオノマトペから離れて、巨大な記号の体系に成長していったのか。「言語の進化」だ。ここで紹介される身体につながっていることばはオノマトペだけでなく、「やわらかい」「かたい」など、世界各地の「一般語と身体性」「音と意味のつながり」が紹介されるが、極めて面白い。「言語の学び手(赤ちゃん)は、新しいことばを覚えるとともに母語の音やリズムの体系、音と意味の対応づけ、語彙の構造などを自分で発見しながら学んでいく。・・・・・・自分を母語の体系の中に溶け込ませていき、体系の中で、もともと文化や言語の文脈の外では感じなかった二次的なアイコン性の感覚を作り上げていく」「言語が進化する上で、オノマトペから離れながらも、抽象的な意味を持つ記号が、言語の使い手の中で身体とつながっている感覚を残していく。このような図式が記号接地問題に対する答えだ」・・・・・・。そして知識を蓄え、学習した知識を分析してさらなる学習に役立つ手がかりを探して学習を加速させ、効率よく知識を拡大していく。その背後にあるのが「ブートストラッピング・サイクルである」と言う。

「つまり言語習得とは、推論によって知識を増やしながら、同時に『学習の仕方』自体も学習し洗練させていく、自律的に成長し続けるプロセスなのである」――。そこで「ヒトが磨いてきた推論」と「動物は行わない(できない)推論」という推論問題に到達する。著者たちが示したのが「演繹推論、帰納推論に加え、『仮説形成推論(アブダクション推論』」だ。演繹推論は新たな知識を創造しない。生息地が限定的なチンパンジーなどの動物は、生活の中で遭遇する対象の多様性・不確実性はヒトほど高くない。そこでは直接観察できる目の前の対象を精度よく処理するには、誤りを犯すリスクが少ない演繹推論の方が生存に有利となる。しかしヒトは居住地を全世界に広げ、他の民族や不確実な自然などの対象を推測・予測する必要があり、新しい知識で立ち向かうしかなかった。アブダクション推論の必要性だが、それによって、人間は言語というコミニュケーションと思考の道具を得ることができたのだ。観察される部分を全体的に一般化するのが帰納推論、観察不可能な何かを仮定し仮説を形成する推論がアブダクション推論だ。当初は感覚に頼って作った小さな知識が新たな知識を生み、雪だるま式に自律的に知識を成長させていく「ブートストラッピング・サイクル」の中心的な役割を果たすのが「アブダクション推論」だ。「AならばX」を「XならばA」に過剰一般化する、原因と結果をひっくり返すなどの非論理的で誤りを犯すリスクのあるアブダクション推論を人間は発達のエンジンとし、抽象的な概念を習得してきたのだ。なお現在のニューラルネット型AIは記号接地を全くしていない。

確かに、本書を読み進めるうち「オノマトペからスタートした筆者たちの言語探求の旅」に、自分が伴走していたことに気づく。それほどの迫力ある知的刺激の著作だ。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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