激変するアジア情勢――外務省中南米局長、外務報道官、駐ベトナム大使、駐ベルギー大使・ NATO日本政府代表を歴任した著者が、「国を理解するには歴史から始めよ」の教えを胸に、アジアの潮流を歴史から読み解く。見識の詰まった面白い著作。経済・軍事大国になった中国の動向が最重要だが、近隣アジア諸国の思惑はそれぞれ複雑で違いを見せる。「食は民の天なり」を地で行く東南アジア。中国、韓国との関係は重要だが、長期的に見れば「 ASEAN諸国との関係発展こそ一段と重視すべき」と言う。
「『異文化の衝突』の視点から見る日韓関係」――。同文同種とされたようだが全くそれは幻想。尚文軽武vs武士道精神、崇儒排仏vs神仏習合、派閥党争vs和の精神。このように全く違うのだと言う。
「合従vs連衡の時代に入った東アジア」「永楽帝と習近平を隔てる600年の歳月」「習近平が『皇帝』になった日」「中国におけるナショナリズムと『民族』」などで、古代中国の歴史、儒家、漢族中心主義のナショナリズムなどを対比しつつ現在の中国が述べられる。「東南アジアに浸透する中国の影響力」として、関係の深まりとともに、蓄積される ASEANの懸念が描かれる。
「日中越トライアングルへの視点」――。元寇と日露戦争の逸話、ベトナム庶民の嫌中感情の高まりとベトナム共産党の親中姿勢。ベトナム内政のコロナ禍の二大汚職事件、驚天動地の国家主席辞任劇、日越関係50周年と今後の展望が現場に即して語られる。
そしてインド。大国インドの歴史は複雑で厳しい。「カシミール問題」「パキスタン問題」「ヒンドゥー教とイスラム教」「高まる中国の脅威と経済依存」「武器とエネルギーと原子力のロシアとの関係強化」「ソ連邦の崩壊がもたらした印米接近」「モディ首相のグローバルサウス構想とその盟主」「インドのナショナリズムとヒンドゥー教至上主義の共鳴」・・・・・・。
現地、現場と歴史の時間軸の人間・文化論を交えての現在のアジア情勢分析は説得力を持っている。