himituno.jpg「南総里見八犬伝」の曲亭馬琴。「私は唐土の『水滸伝』に匹敵する小説を書きたかったのだ」「史実の種を見出し、文章を耕して種を蒔き、大いなる虚を育てる。それが稗史小説たるものの、執筆作法であり、読む面白さであり、作そのものの真だ」――狷介、不遜とも言われた馬琴の生涯を生々しい息遣いと素顔の中から描く。

「私はその型から脱却したい。虚実の按配を変えて、歴史をより深く考証する。・・・・・・誰も読んだことのない天衣無縫の物語を紡ぎたい」「『ならおれも、挑むとしよう』と北斎は湯帷子の袖を肩まで捲りあげた」――「椿説弓張月」の北斎とのコンビ絶妙。

(山東京伝の言葉が耳に入った)あたしは馬琴と交わって20年だが、近頃はますます気韻高く、結構なことさ。見事に山嶺に登り詰めたね。でもなにゆえ、時には山麓に下りて遊ばないのかねえ。麓から嶺を見上げたら、絶壁も断崖も、よく見えるものを・・・・・・増上慢だと非難されたような気がした。いかに師であろうともはや志が違うのだと思い知り、肚の底が冷えた」・・・・・・。「京伝の通夜、葬儀にも行かなんだ。・・・・・・わしは、一人で誰の力も借りずに、日本一の戯作者になりおおせた、そう思いたかった。狷介、不遜と謗られようとも、一個の作者として屹立したかった。京伝の師恩を踏みつけてでも」・・・・・・。

「渡辺華山よ、胸の中で呼びかけた。なにゆえ自制せなんだ。・・・・・・『八犬伝』を読んで気づかなんだのか。わしとて、昨今の政には存念がある。『八犬伝』で勧善懲悪を貫き通すは、悪の本性を問いたいがためだ。それは一個の無頼、蛮勇とは似て非なるもの、最も憎むべきは権力の悪ぞ。八犬士はその非道、無能、無慈悲と闘い続けておる。権力を持つ者こそが、仁義礼智忠信孝悌の珠を持たねば、天下が収まらぬではないか」・・・・・・。馬琴の息遣いと心の中が伝わってくる。

馬琴の人生は、波瀾万丈。大名の家臣の家に生まれたが、若き主君・松平八十五郎君に仕えるが、これが粗暴極まりない男で生傷が絶えず出奔。放浪の末、当代一の戯作者山東京伝の門をたたき、更に蔦屋十三郎の店に奉公して戯作の道に踏み出す。やがて独自の小説、読本作家として立ち、人気を博するようになる。しかし、妻はいつも苛々、不平不満、不機嫌で馬琴に当たり散らす。頼みの息子は医者として士官できるが病弱、出仕も滞りがちだ。板元とのトラブルは日常茶飯のこと。締め切りに追われて、体を酷使して、書き上げる毎日。その中で息子と共に庭の花園で草花を育てるのは、かすかな楽しみであった。

馬琴の素顔、日常の哀歓と凄まじい創作意欲が伝わってくる作品。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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