koyouka.jpg景気の悪化、生産が縮小し、倒産の危機が迫る時、「クビか賃下げか」「雇用か賃金か」を企業は迫られることになる。コロナ禍の現場を調査して、「雇用調整を迫られた現場で何が起きているのか」「現代日本の雇用調整の実態、長期雇用の内実」に迫る。コロナ禍に直撃された航空業界の国際比較と、長期的に労働需要が減少した百貨店の事例から、日本の雇用調整の内実を明らかにする。

「もし、コロナ危機が、福祉国家が成立する前に起きていたら、どうなっていただろうか」と問いかけており、ハッとする。確かに労働市場は瞬く間に失業者で溢れ、貧困と困窮に陥り、購買力は減退。総需要は縮小し、景気はさらに落ち込み、企業の倒産と失業の連鎖が起きていたかもしれない。これまで世界各国が、さまざまな経済・労働・ 雇用制度を築いてきたゆえに混乱をくぐり抜けてきたと言える。今後も予期せぬ事件が起きるであろうが、「労働は人間の基本」である以上、「安心して働き続けられる社会」に向け、雇用調整等のより強固なシステムと取り組みが求められる。本書はそのための貴重な調査研究となっている。

「消えた観光客」「一時休業の開始」「新卒採用の停止」「雇用を守るため、賃金を削る」「航空の仕事はチーム労働」「公共交通の責務」などANAの苦闘が描かれる。そして日米の違い――「雇用を維持し賃金を下げた日・独・英」「日本は人員調整のスピードが遅く、アメリカは速い(日本は賃金調整のスピードが速いとも言える)」「日本の賃金調整ではまず、賞与や残業時間を調整弁とする」「雇用調整助成金の果たす役割は大きい」「人員調整では、日本は一時休業、配置転換、出向(それでも充分でない時に希望退職)が主流、アメリカの雇用調整はブルーカラーでは一時解雇、ホワイトカラーでは希望退職が主流」である。アメリカは雇用関係を解消する雇用調整、日本は継続する雇用調整が中心となる。「コロナ禍で退職者数の規模は欧米は多かったが日本は少ない」「賃金調整には限界があり、日本ではそれを超えると、非正規社員、子会社や下請け企業、中小企業にしわ寄せされる」ことになる。調整弁だ。

コロナ禍ではなく、構造的不況業種の場合はどうか。「一時休業や賃金調整は、短期間かつ一時的な雇用調整には効果的だが、長期的で継続的な雇用調整には、適当な措置とは言い難い。構造変化、技術革新の場合は、需要は戻ってこない。その長期的雇用調整で活用されるのが出向や転籍だ」――。百貨店で、店舗閉鎖の場合が詳述される。出向の場合、ミスマッチも多いが、「百貨店から銀行へ」が、仕事の時間、接客の経験が生きるなどで、比較的好評だと言う。「意に沿わない配転や出向もあるが、40代、50代の中途採用の労働市場が厳しいのでそちらを選ぶ場合が多くなる」傾向にあると言う。

景気・経済やコロナ禍・大規模自然災害など、流動的要素の多いなか、企業経営をどうするか。「人手不足」時代の中での働き手の確保、そのなかでの「雇用か賃金か 日本の選択」の課題はあまりにも多い。 

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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