kodou.jpg「身につまされる」ような小説。昭和50(1975)前後に生まれたいわゆる団塊ジュニアたちの見た世界。「24時間働けますか」の右肩上がり、高度成長期から突然のバブル崩壊、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、金融の崩壊、デフレへの突入・・・・・・。社会に出た時は、「就職氷河期」のど真ん中。彼らの親は、「男は男らしく、女は女らしく」、競争に生き抜くことを余儀なくされた団塊の世代。「80 50問題」と言われるに至った今、まさに団塊の世代と団塊ジュニアの世代の葛藤を背景にした社会派ミステリーが本書だ。自分自身が遭遇した世界だけに、我々の仲間世代には、あまりにも生々しく身につまされるのだ。

20226月、公園でホームレスの老女が殺され、遺体が燃やされる事件が起きる。逮捕された男・草鹿秀郎は18年も引きこもりで、高齢の父親を殺害したことも自供する。女性刑事の奥貫綾乃は、殺された女性の身元を調べるなかで、自分の未来を重ねるとともに、自分たちの育った社会の歪みと対峙することになる。犯人の草鹿も綾乃も、そして殺されたホームレスの女性の娘も、同じ1974年生まれ、まさに団塊ジュニアそのものだ。

草鹿は全面自供する。中学生の時、「オタク」とからかわれ、好意を持っていた女性からも「キモい」と言われ、いじめに遭う。大学は卒業したが、就職氷河期。就活、圧迫面接、巡り会ったのはブラック企業、職場を転々とし、そこで感じる惨めさ、馬鹿にされ、嫌われてしまう恐怖感。32歳になって仕事探し自体をしなくなった。「ニート」という言葉が流行った頃だ。捜査をする綾乃は「更衣室の中でしかし風を感じた気がした。草鹿秀郎が内側に抱えるがらんどうから吹いてくる風を。・・・・・・風が、今度は綾乃に囁いた。――弱いのは、おまえもだろう。唐突に、震災の日の記憶が蘇る。独りぼっちで泣いているわが子。その無事を喜べなかった自分。愛するべきものを愛せないことも、きっと弱さだ」・・・・・・。そして、殺され焼かれた女性の身元を調べるうち、その愛する娘・茉莉花が引きこもり、自傷行為に及び、母娘とも苦しんでいたことがわかる。皆、バブル崩壊後の不況の影響を受けた就職氷河期世代。この世代の苦悩や絶望、後悔や鬱屈が描かれ、親の世代として、その叫びが痛いほど響いてくる。親も悩み苦しみ、引きこもりの子供を殺害した事件があったことを思い起こす。

48歳、無職、独身、恋愛経験なし、ずっと引きこもり」の男は何を考え、何に苦しみ、もがき、親を殺し、遺体を燃やすに至ったか。団塊の世代と団塊ジュニアの世代が抱え込んだ時代の暗い影を描く社会派ミステリー。考えさせられ、重い。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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