21seiki.jpg「学問、功利主義、ジェンダー、幸福を考える」が副題。ポリティカル・コレクトネス、差別、格差、ジェンダー、動物の権利、仕事の辛さと幸福・・・・・・。直面するこれら課題について「幸福」「道徳」を古典的な思想と哲学の議論を踏まえつつ最新の学問の知見に触れつつ考える。「学問の意義」「功利主義」「ジェンダー論」「幸福論」の4つのカテゴリーで構成する、進化論を軸にしたこれからの倫理学を語る。

最終章は「黄金律と『輪の拡大』、道徳的フリン効果と物語的想像力」で締めくくる。「人間の利他的行動をめぐる論争」だ。利他的行動は生物学だけでは説明がつけられない。「道徳の黄金律は、自分が他人から知ってもらいたいと思うような行為を、他人に対して行え。自分が他人からされたくないと思うような行為は、他人に対して行うな」――この黄金律が普遍的な道徳と呼ばれる。「本来は生存や繁殖を有利にするために進化したはずの理性が、生存や繁殖を不利にしても他人を助ける考え方を選択するようになる。『輪の拡大』」だ。人類の歴史において道徳的配慮の輪が拡大してきた。その道徳的配慮の輪を広げるためには「他人の立場に立つこと、他人の視点を取得すること」が必要とされる。さらに「知識と論理だけでは黄金律を実践することはできない」「他人の立場に身を置くためには物語的想像力が必要だ。そのためには人文学や芸術が不可欠である」と言う。そして「他者に対する関心を広げるきっかけとなるのは愛情である。相手のことを真剣に考えるようになるものだ」と言い、「抽象的な思考と物語的想像力のどちらも不可欠」と結論付ける。

論点を長い歴史の中から考える。「人文学は何の役に立つのか」「なぜ動物を傷つける事は差別であるのか」「トロッコ問題を考える。オートモードの感情とマニュアルモードの理性。トロッコ問題は、まさに特殊な状況であり、道徳感情に従うべきではなく、理性に基づいて考えることだ」「マザー・テレサの名言。大切な事は遠くにある人や大きなことではなく、目の前にある人に対して愛を持って接することだ。他の国の人間を助ける事は他人によく思われたいだけの偽善者である。偽善者なのか慈善者なのか」「かわいそうランキングについては、感情ではなく、マニュアルモードの理性に基づかせるべきである」「フェミニズムは男性問題を語れるか(男性の対物志向と女性の対人志向) (男性のシステム化思考と女性の共感思考)」「ケアや共感を道徳の基盤とすることができるのか」「ストア哲学の幸福論は現代にも通じるのか(ストア哲学の欲求コントロール)」「マズローの欲求のピラミッド。生理的欲求から社会的欲求、そして自己実現への欲求」「心の平静を求めるストア哲学、それを超えて他者がいないと満たされない欲求もある」「快楽だけでは幸福にたどり着けない理由、子供を育てたり仕事での達成感や没頭感」「仕事は禍いの根源なのか、それとも幸福の源泉なのか」・・・・・・。

「哲学と言えば、答えの出ない問いに悩み続けることだ、と言われることがあるが、私はそうは思わない]といい、「哲学的思考は難しい問題に何らかの形で正解を出すことができる考え方」と言う。言い方を変えれば、難しい問題から目をそらさずに考え続けることが哲学であり、その真摯な姿勢が「21世紀の道徳」となるのではないかと思う。


koukun.jpg「この世に、香りで万象を知る香君は存在しない。初代の香君さま以外はすべて偽物だ」「私にとって香りは言葉より雄弁です。絶えず香の声が聞こえ、人の声と違って止む事はありません。それを聞き続けていることが、幸君の徴であるというのであれば、私は多分、香君なのでしょう」――。

いったん下限を下げることによって、危機を乗り越えたかに見えたが、「駆除の方法が見つからない以上、本当の危機脱出にはならない」との恐れは払拭できないでいた。そして香君オリエ、アイシャは、マシュウの母の故郷でもある「幽谷ノ民」の地へ向かう。しかし「救いの稲」による希望は無残にも打ち砕かれる。それ以上の凄まじい災厄、バッタの大群に襲われるのだ。稲だけでなく、牧草も野菜も食い尽くすという自然の摂理の無情さだ。全焼却すべきだが、国は果たして維持していけるのか。政治的にも帝国は保持できるかどうか――大変な決断を迫られる。オードセン新皇帝、香君オリエ、マシュウ、アイシャ・・・・・・。

オードセンを前にしてのアイシャの発言、マシュウの発言――まさに立正安国、国主諫暁のごとしだ。

「私は、天と地と人々の前に、何の掛け値もない自分として、たたねばならない」――。壮大なファンタジーであるが、人間と自然、自然界の連鎖、国家の危機管理、神と幻想、文明の進歩と逆襲など、根源的問題を提起し、コロナ禍をも想起させる類例の」ない作品。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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