「新たな国際秩序と地政学を読み解く」と副題にあるが、「地政学、文明、歴史から読む新たな国際情勢の地殻変動」だと思った。
イスラーム国(IS)、シリア、ギリシャ、ウクライナ、イエメン等をめぐる対立や紛争の構造。そこにある米国、ロシア、イラン、サウジアラビア、トルコ、イスラエル等々の思惑。その背景にあるスンナ派、シーア派等々の宗教と歴史と地政・・・・・・。
緊張する中東、ロシア地域は、日本にとっては、どうしてもその大きな構造変化とその戦略に鈍感になりがちだ。それが怖い。本書はまさにその中東、ロシアの専門家・山内昌之さん、佐藤優さんの対談だが、大胆かつ本質的、鋭角的だ。「イスラーム国、中東の狂った果実」「地政学を抜きにして中東情勢は読み解けない」「地理と民族が彩るロシアの曲折」「欧米史観と虚国ギリシャの悲劇」「中国の理屈なき海外膨張と中東への野望」「情報地政学で理解する未来図、そして戦争」の6章よりなるストレート対談。
「戦争を正面から考える」がテーマで「日本で戦争をすることを決めるのは誰なのか」「国民を兵士として、あるいは戦争支持者として動員するには、人間の精神にどのような働きかけを行うのか」という問いが提示される。とくに後者――。哲学者・田辺元の太平洋戦争開戦前の著書「歴史的現実」と終戦直後の著書「懺悔道としての哲学」にふれ、「死者との連帯」の視点を掘り下げる。そして「国家の歴史、救済・・・・・・このように大きな問題と死者の問題を結びつけると、ルターとなり、田辺元となり、麻原彰晃のような言説を生み、それを信奉し、行動を起こす人間を生む、あるいは異論をとなえられない世間の空気を生むのです」という。そして「愛する人の死を起点にすること」を示す。
そのうえで、「国家は必要悪だが、"悪"がせり出す存在になるゆえに、国家との距離のとり方が大事だ」「中間団体が強くなることで、社会全体を強靭にできる」「自分の愛する人、親しい人――それは亡くなった人も含めて――を起点に人間関係をつなげ、強固にする」ことの重要さを説く。
また「"シーア派のアラブ人"という新しい民族が誕生しつつある」「沖縄人のアイデンティティー」という変化する視点を提示している。
戦後70年の節目にあたり今年に出した安倍政権の「70年談話」。1868年の明治維新から70年といえば1938年、日中戦争が始まる翌年。そして1945年から70年だ。この談話に向けて設けられたのが有識者による21世紀構想懇談会(20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための有識者懇談会)だ。西室泰三座長、北岡伸一座長代理をはじめ、学者、言論界、ビジネス界など幅広い分野と様々な世代より構成された。本書はその議論の全貌であり、すでに会議ごとに公表されたものだが、一冊にまとめられたものを通読すると、歴史や国際政治が俯瞰され、大変示唆に富んだものとなっていることを感ずる。
諮問事項は「20世紀の世界と日本の歩みをどう考えるか」「その教訓を踏まえ、戦後日本の平和主義、経済発展、国際貢献をどう評価するか」「米国、豪州、欧州の国々、とくに中国、韓国等アジアの国々とどのような和解の道を歩んできたか」「21世紀のアジアと世界のビジョンをどう描き、貢献するか」「戦後70周年にあたって我が国が取るべき具体的施策はどのようなものか」の5つだ。
現在の日本の原型はほとんど1945年~1972年までの占領期の7年弱につくられたと思うが、広く明治維新からの140年間を俯瞰する作業は大きな意義をもっている。